相続不動産の売却の流れ
一般的な不動産売却と同じ流れですが、「相続登記の完了」が前提になる点が特殊。名義が被相続人のままでは売れないため、そこから逆算して動く必要があります。
全体の流れ(8ステップ)
- 相続登記:売却前に名義変更が必須。
- 物件の状況確認:境界、接道、権利関係、既存不適格建築物でないか等。
- 複数社に査定依頼:最低3社、できれば5社。ネット一括査定+地元業者の併用が鉄則。
- 媒介契約の締結:一般/専任/専属専任の3種類。相続物件は専任がバランス良好。
- 販売活動:写真撮影・レインズ登録・内覧対応。専任媒介なら契約期間の上限は3か月で、そこが更新の判断ポイントになります。
- 売買契約:買主確定で手付金受領。
- 決済・引き渡し:残代金受領、鍵の引き渡し、所有権移転登記。
- 翌年の確定申告:譲渡所得税の申告と納税。
1つ目の相続登記は、2024年4月に義務化されています。不動産登記法第76条の2第1項により、相続で所有権を取得した者は知った日から3年以内に所有権移転登記を申請しなければなりません。詳細は相続登記義務化のページにまとめました。
媒介契約で法律が守ってくれること
媒介契約は「業者に任せる」書類ではなく、宅地建物取引業法が記載事項と業者の義務を細かく決めている契約です。ここを知っているかどうかで、売却期間中の情報量が変わります。
書面の記載事項は法定されている
同法第34条の2第1項は、媒介契約を締結したときは遅滞なく、次の事項を記載した書面を作成して記名押印し、依頼者に交付しなければならないと定めています。
- 物件を特定するために必要な表示(第1号)
- 売買すべき価額または評価額(第2号)
- 他の業者に重ねて依頼することの許否、許す場合の明示義務の存否(第3号)
- 既存の建物のときは建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項(第4号)
- 媒介契約の有効期間および解除に関する事項(第5号)
- 指定流通機構(レインズ)への登録に関する事項(第6号)
- 報酬に関する事項(第7号)
- その他国土交通省令・内閣府令で定める事項(第8号)
査定価格の「根拠」は出させることができる
同条第2項は「宅地建物取引業者は、前項第二号の価額又は評価額について意見を述べるときは、その根拠を明らかにしなければならない」と定めています。高い数字を出した理由を聞くのは、依頼者のわがままではなく法律が予定している手続きです。相続物件は比較事例が少ないことが多いので、どの成約事例をどう補正したのかを必ず確認してください。
専任媒介は3か月が上限。長い期間の特約は無効
同条第3項は「専任媒介契約の有効期間は、三月を超えることができない。これより長い期間を定めたときは、その期間は、三月とする」としています。第4項により更新は依頼者の申出によるもので、更新のたびに3月が上限です。自動更新の特約は置けません。
そして第10項が効きます。「第三項から第六項まで及び前二項の規定に反する特約は、無効とする」。つまり有効期間・レインズ登録・登録を証する書面の引渡し・申込みの報告・処理状況の報告について、依頼者に不利な特約は効力を持ちません。
レインズ登録と報告の頻度も義務
- 専任媒介を締結したら、国土交通省令で定める期間内に指定流通機構へ登録しなければならない(第5項)
- 登録したら、登録を証する書面を遅滞なく依頼者に引き渡す(第6項)
- 売買の申込みがあったときは、遅滞なくその旨を依頼者に報告する(第8項)
- 専任媒介は業務の処理状況を2週間に1回以上、専属専任媒介(依頼者が自ら探した相手方と契約できない特約を含むもの)は1週間に1回以上報告する(第9項)
「反応がないので連絡していません」は、専任媒介では通りません。申込みがあったのに報告が来ない状態は、第8項違反にあたります。登録を証する書面を受け取っていない場合も、第6項を根拠に請求できます。
売却価格の決まり方
主に「取引事例比較法」で決定。近隣の類似物件の成約価格をベースに、築年数・面積・駅距離で調整。路線価や固定資産税評価額は参考値でしかありません。
どの手法を使ったかにかかわらず、上に書いたとおり意見として述べた価額には根拠の説明義務があります(宅建業法第34条の2第2項)。査定書に事例が載っていないときは、書面で出してもらってください。
仲介手数料の上限は告示で決まっている
法定上限は「売買代金 × 3% + 6万円(+ 消費税)」。例:1,500万円で売却 → 51万円(税別)。
この上限の根拠は、法律ではなく国土交通大臣の告示です。宅地建物取引業法第46条第1項は「宅地建物取引業者が…受けることのできる報酬の額は、国土交通大臣の定めるところによる」とし、第2項で「前項の額をこえて報酬を受けてはならない」、第3項で大臣が定めたときは告示すること、第4項で「宅地建物取引業者は、その事務所ごとに、公衆の見やすい場所に…報酬の額を掲示しなければならない」と定めています。事務所に掲示されているはずなので、その場で確認できます。
実際の告示は「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」(昭和45年10月23日建設省告示第1552号、最終改正 令和6年6月21日国土交通省告示第949号)です。第二は、売買の媒介について依頼者の一方につき、代金の額を次の区分に分けてそれぞれの割合を掛けた金額の合計以内、としています(いずれも消費税等相当額を含む額)。
| 代金の額の区分 | 割合(税込) |
|---|---|
| 200万円以下の金額 | 100分の5.5 |
| 200万円を超え400万円以下の金額 | 100分の4.4 |
| 400万円を超える金額 | 100分の3.3 |
この区分で1,500万円を計算すると、200万円×5.5% = 11万円、200万円×4.4% = 8.8万円、1,100万円×3.3% = 36.3万円で、合計56.1万円(税込)。税抜きに直すと51万円で、冒頭の「3% + 6万円」と一致します。「3%+6万円」は400万円を超える部分に当てはまる簡便計算であって、告示に書かれている形ではありません。
告示第十一①は「宅地建物取引業者は…第二から第十までの規定によるほか、報酬を受けることができない。ただし、依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額については、この限りでない」としています。「販促費」「書類作成料」といった名目の追加請求は、依頼して行った広告の料金でない限り認められません。
800万円以下の空き家は、手数料の上限が別に決まっている
相続した空き家の売却で必ず確認してほしいのがここです。同じ告示の第七は「低廉な空家等の売買又は交換の媒介における特例」を定めています。
低廉な空家等とは、売買に係る代金の額(消費税等相当額を含まない)が800万円以下の宅地または建物をいいます。この特例により、業者は「第二の規定にかかわらず、当該媒介に要する費用を勘案して、第二の計算方法により算出した金額を超えて報酬を受けることができる」とされ、その上限は「三十万円の一・一倍に相当する金額」=33万円(税込)です。第八により、代理の場合はこの金額の2倍以内となります。
意味するところは「安い物件ほど、料率どおりより高い手数料になりうる」ということです。上の区分で計算すると、代金500万円なら 200万円×5.5% + 200万円×4.4% + 100万円×3.3% = 23.1万円(税込)ですが、この特例が適用されると最大33万円(税込)まで受け取れます。ちょうど800万円のときは、同じ計算で 11万円 + 8.8万円 + 400万円×3.3%=13.2万円 = 33.0万円となり、特例の上限と一致します。800万円は、料率計算と33万円が並ぶ境目として設定されています。
この特例は令和6年6月21日国土交通省告示第949号によって改正され、令和6年7月1日から施行されています。新旧対照表で改正前の条文を確認すると、旧第七は対象が「400万円以下」、依頼者は「空家等の売主又は交換を行う者である依頼者に限る」、上限は「十八万円の一・一倍」でした。つまり改正で、対象価格帯が倍に広がり、買主側からも受け取れるようになり、上限額が引き上げられたことになります。
注意点は2つです。第一に、これは上限であって定額ではありません。「当該媒介に要する費用を勘案して」という条件が付いているので、費用の説明を求めてください。第二に、金額は媒介契約の書面の記載事項です(第34条の2第1項第7号)。契約前に書面で確認できます。
なお、貸す場合にも同じ告示の第九・第十に「長期の空家等の貸借」の特例があります。長期の空家等とは、現に長期間にわたって居住の用・事業の用その他の用途に供されておらず、または将来にわたり供される見込みがない宅地または建物で、一定の条件のもとで媒介・代理の報酬の上限が借賃の1か月分の2.2倍まで引き上げられます。第九・第十とも上記の改正での新設です。
相続不動産の売却で見落としがちなポイント
- 境界確定:隣地との境界が未確定だと大幅に売りにくくなる。
- 残置物の処分:家財が残ったままでは内覧も引き渡しもできない。処分の範囲と時期を早めに決める。
- 建物インスペクション:耐震性・雨漏り等のチェック。買主の安心材料になり、媒介契約書にもあっせんの有無を書く欄がある(宅建業法第34条の2第1項第4号)。
- 3,000万円特別控除:条件を満たせば譲渡所得から3,000万円控除。詳細
- 取得費加算の特例:相続税を支払っていれば取得費に加算可能。
接道を満たさない土地は、売る前に確認する
境界と並んで効くのが接道です。建築基準法第43条第1項は「建築物の敷地は、道路に二メートル以上接しなければならない」と定めており、ここでいう道路は同法第42条第1項により原則として幅員4メートル以上のものです。幅員4メートル未満でも、同条第2項により特定行政庁が指定した道は道路とみなされますが、その場合は中心線から水平距離2メートルの線が道路の境界線とみなされるため、その分の敷地は建築に使えません。
接道を満たさない敷地でも同法第43条第2項第2号の許可による例外はありますが、建築審査会の同意を要する手続きで、当然に認められるものではありません。建て替えができるかどうかは価格に直結するので、査定を依頼する前に市区町村の建築指導担当窓口で前面道路の種別を確認しておくと話が早くなります。
2つの特例は同じ譲渡について併用できない
3,000万円特別控除(租税特別措置法第35条第3項)と取得費加算(同法第39条第1項)は、どちらも相続した不動産の売却で使える特例ですが、併用はできません。第35条第3項が定める「対象譲渡」の括弧書きに「第三十九条の規定の適用を受けるものを除く」とあるためです。
期限も違います。3,000万円特別控除は相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡(かつ平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間、譲渡対価1億円以下)、取得費加算は相続の開始があった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの譲渡です。詳しくは3,000万円特別控除のページと相続〜不動産処分の全体フローを参照してください。
売却 or 賃貸で迷ったら
10年保有の収支を比較できる売却 vs 賃貸 収支比較ツール(準備中)をご利用ください。譲渡所得税は譲渡所得税計算機(準備中)で試算可能です。
更地にしてから売る選択肢もありますが、建物を壊すと住宅用地特例が外れます。手順と注意点は空き家の解体ガイドにまとめました。
参考・出典
- e-Gov法令検索 - 宅地建物取引業法(第34条の2 媒介契約、第46条 報酬)
- 国土交通省 - 宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額(昭和45年10月23日建設省告示第1552号/最終改正 令和6年6月21日国土交通省告示第949号・PDF)
- 国土交通省 - 宅地建物取引業法(法令・告示(報酬告示・標準媒介契約約款)等)。改正の施行日と新旧対照表の掲載ページ
- e-Gov法令検索 - 建築基準法(第42条 道路の定義、第43条 敷地等と道路との関係)
- e-Gov法令検索 - 不動産登記法(第76条の2 相続等による所有権の移転の登記の申請)
- e-Gov法令検索 - 租税特別措置法(第35条 居住用財産の譲渡所得の特別控除、第39条 相続財産に係る譲渡所得の課税の特例)
実際の売却手続きは宅地建物取引業者にご相談ください。