空き家の解体ガイド
解体は「更地にして売却したい」「特定空き家指定を避けたい」ときの選択肢。ただし更地化で住宅用地特例が外れ、翌年からの固定資産税が跳ね上がる点は要注意です。
解体費用の確かめ方
解体費用は、建物の構造・立地・付帯物・廃棄物の処分費などで大きく変わります。当サイトでは坪単価の相場を掲載していません。出典を示せる公的な統計が見当たらないためで、根拠を示せない数字を載せると、読者がその額を前提に判断してしまうからです。
代わりに、法律が「費用を書面で明らかにさせている」ことを使ってください。建設リサイクル法(建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律)第13条第1項は、対象建設工事の請負契約の当事者について、建設業法第19条第1項に定めるもののほか、分別解体等の方法、解体工事に要する費用その他の主務省令で定める事項を書面に記載し、署名または記名押印をして相互に交付しなければならないと定めています。第2項により、契約内容を変更するときも同じく書面が必要です。
つまり「解体工事に要する費用」は契約書面の記載事項であり、口頭の総額だけで契約する形にはなっていません。複数社から見積りを取り、内訳の項目立てが揃っているかを見比べるのが、相場表を眺めるより確実です。
石綿(アスベスト)の調査費用についても定めがあります。大気汚染防止法第18条の15第2項は「解体等工事の発注者は、当該解体等工事の元請業者が行う前項の規定による調査に要する費用を適正に負担することその他当該調査に関し必要な措置を講ずることにより、当該調査に協力しなければならない」としています。調査費用は発注者が負担するものとして法律に書かれているので、見積りに含まれていなければ内訳を確認してください。
工事の前に、発注者自身が出す届出が2つある
解体は「業者に任せれば終わる」と思われがちですが、法律上の届出義務は発注者に課されています。実務では業者が書類を作って代行することが多い一方、罰則が向くのは届出義務者である発注者です。着工日から逆算して日程を組む必要もあるので、内容を知っておいてください。
① 建設リサイクル法の届出(着手の7日前まで)
建設リサイクル法第10条第1項は「対象建設工事の発注者又は自主施工者は、工事に着手する日の七日前までに、主務省令で定めるところにより、次に掲げる事項を都道府県知事に届け出なければならない」と定めています。届け出る内容は次のとおりです。
- 解体工事である場合は、解体する建築物等の構造(第1号)
- 工事着手の時期および工程の概要(第3号)
- 分別解体等の計画(第4号)
- 解体工事である場合は、解体する建築物等に用いられた建設資材の量の見込み(第5号)
- そのほか主務省令で定める事項(第6号)
対象になる規模は政令で決まっています。建設リサイクル法施行令第2条第1項第1号は、建築物に係る解体工事について「当該建築物(当該解体工事に係る部分に限る。)の床面積の合計が八十平方メートルであるもの」を基準としています。80㎡はおよそ24.2坪(1坪=約3.306㎡)にあたります。延べ床面積がこれ以上であれば対象建設工事です。同条第2項は、同一の者が2以上の契約に分割して請け負う場合には1つの契約で請け負ったものとみなすとしており(正当な理由に基づいて分割したときを除く)、棟を分けて発注しても基準を回避できません。
届出をしないまま、あるいは虚偽の届出をして着工すると、同法第51条第1号により20万円以下の罰金の対象になります。
着工日がずれる可能性にも注意してください。同法第10条第3項は、知事が届出に係る分別解体等の計画が基準に適合しないと認めるときは、届出を受理した日から7日以内に限り、計画の変更その他必要な措置を命ずることができるとしています。「7日前まで」は最短であって、余裕を見た日程にすべきです。
なお、発注者が丸腰で書類を作るわけではありません。同法第12条第1項は、対象建設工事を発注しようとする者から直接工事を請け負おうとする建設業を営む者に対し、第10条第1項第1号から第5号までの事項について、これらを記載した書面を交付して説明しなければならないと義務づけています。説明の書面を受け取ってから届け出る、という順序です。書面が出てこない業者は、この時点で候補から外す判断材料になります。
② 石綿(アスベスト)に関する調査と届出
大気汚染防止法第18条の15第1項は、建築物等を解体・改造・補修する作業を伴う建設工事(解体等工事)の元請業者に対し、その工事が特定工事に該当するか否かについて、設計図書その他の書面による調査、特定建築材料の有無の目視による調査その他の環境省令で定める方法による調査を行うことと、その結果などを発注者に書面を交付して説明することを義務づけています。同条第4項により、請負契約によらず自分で施工する場合は自主施工者が調査と記録の作成・保存を行います。
調査結果は行政にも届きます。同条第6項は「解体等工事の元請業者又は自主施工者は、第一項又は第四項の規定による調査を行つたときは、遅滞なく、環境省令で定めるところにより、当該調査の結果を都道府県知事に報告しなければならない」と定めており、報告をせず、または虚偽の報告をした場合は同法第35条第4号により30万円以下の罰金の対象です。第5項により、調査記録の写しは工事現場に備え置き、調査の結果を現場で公衆に見やすいように掲示することになっています。
そして、一定の建材が使われていた場合は発注者にも届出義務が生じます。同法第18条の17第1項は「特定工事のうち、特定粉じんを多量に発生し、又は飛散させる原因となる特定建築材料として政令で定めるものに係る特定粉じん排出等作業を伴うもの(届出対象特定工事)の発注者又は自主施工者は、当該特定粉じん排出等作業の開始の日の十四日前までに…都道府県知事に届け出なければならない」と定めています。ここでいう政令で定める特定建築材料は、大気汚染防止法施行令第10条の2により吹付け石綿ならびに石綿を含有する断熱材、保温材および耐火被覆材とされています。
この届出を怠った場合、または虚偽の届出をした場合は、同法第34条第1号により3月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です。建設リサイクル法の7日前とは別に14日前の期限があるので、事前調査で該当が判明したら日程を引き直してください。届出後も、同法第18条の18により知事は受理した日から14日以内に計画変更を命じうる立場にあります。
追加の作業が発生するケース
次のような事情があると、標準的な解体作業に工程が加わります。金額は現地の状況で変わるため、必ず見積りの内訳で確認してください。
- 石綿含有建材があった場合:飛散防止措置や除去の作業が加わり、上記の届出も必要になることがあります
- 浄化槽・ブロック塀など建物以外の撤去:契約範囲に入っているかを書面で確認
- 重機が入らない狭小地:手作業の割合が増え、工期も延びます
- 地中埋設物の撤去:井戸、旧基礎、ガラなど、掘って出てきた量で変動します
- 樹木の撤去:本数・幹の太さ・搬出経路で変わります
解体後の固定資産税に要注意
建物がなくなると「住宅用地特例」が外れ、土地の固定資産税の課税標準が最大6倍(都市計画税は3倍)に。売却見込みがないまま更地にすると、ランニングコストが跳ね上がります。解体は「解体→売却/活用」をセットで計画するのが鉄則。
根拠は地方税法です。第349条の3の2は、住宅用地の課税標準を第1項で価格の3分の1、第2項で200㎡以下の部分(小規模住宅用地)について価格の6分の1と定めています。この規定は「専ら人の居住の用に供する家屋…の敷地の用に供されている土地」に対するものなので、家屋が無くなればそもそも住宅用地に当たらなくなります。都市計画税の特例(第702条の3第1項の3分の2、第2項の3分の1)も、第349条の3の2の適用を前提にしているため同時に外れます。
倍率の計算は、固定資産税の標準税率1.4%(同法第350条第1項)と都市計画税の税率の上限0.3%(同法第702条の4)で確かめられます。200㎡を超える部分はもともと3分の1にしか軽減されていないので、外れても3倍にとどまります。敷地面積によって増え方が変わる点は、特定空き家のページに数値例を載せました。宅地には負担調整措置もあるため、翌年度からただちに計算どおりの額になるとは限りません。
賦課期日はその年の1月1日です(同法第359条)。年内に解体すると翌年度から特例が外れ、年明けに解体すればその年度は据え置きという関係になります。売却の予定と合わせて、解体の時期を決めてください。
更地にすると建て直せない土地がある
解体して初めて問題になるのが接道です。建築基準法第43条第1項は「建築物の敷地は、道路に二メートル以上接しなければならない」と定めています。ここでいう「道路」は同法第42条第1項が定義しており、原則として幅員4メートル以上のもの(特定行政庁が指定する区域内では6メートル以上)です。
幅の足りない道に接している場合は、同法第42条第2項の扱いになることがあります。この規定は、都市計画区域の指定などによりこの章の規定が適用されるに至った際現に建築物が立ち並んでいる幅員4メートル未満の道で特定行政庁が指定したものを道路とみなし、その中心線からの水平距離2メートルの線を道路の境界線とみなすとしています。いわゆるセットバックで、その分は自分の土地でも建築に使えません。
接道の要件を満たさない敷地でも、同法第43条第2項第2号により、敷地の周囲に広い空地を有するなど国土交通省令で定める基準に適合し、特定行政庁が交通上・安全上・防火上・衛生上支障がないと認めて建築審査会の同意を得て許可したものは例外となりますが、これは許可であって当然に認められるものではありません。
既存の建物が建っていることは、同じ規模で建て直せることを意味しません。取り壊す前に、市区町村の建築指導担当窓口で前面道路の種別と接道の状況を確認してください。再建築できない土地を更地にすると、買い手が大きく限られます。
滅失登記は1か月以内
建物を壊したら登記も消します。不動産登記法第57条は「建物が滅失したときは、表題部所有者又は所有権の登記名義人…は、その滅失の日から一月以内に、当該建物の滅失の登記を申請しなければならない」と定めています。
これは努力義務ではありません。同法第164条第1項は、第57条ほかの申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処するとしています。滅失登記を放置すると、存在しない建物に固定資産税が課され続ける事態にもなりえます。
なお、名義が被相続人のままだと滅失登記の申請人の整理が必要になります。相続登記の義務については相続登記義務化のページを参照してください。
解体補助金
多くの自治体で「空き家解体補助金」制度があります。自治体により条件・金額はバラバラですが、概ね以下のパターン:
- 特定空き家または老朽危険空き家に該当
- 市町村の区域内にある
- 事前申請が必須(着工後は申請不可)
必ず市区町村の「空き家対策窓口」に事前相談を。
金額や補助率をこのページには書きません。制度は市町村ごとに設計されており、全国共通の率や上限額が法令に定められていないためです。空家等対策の推進に関する特別措置法第29条第1項は「国及び都道府県は、市町村が行う空家等対策計画に基づく空家等に関する対策の適切かつ円滑な実施に資するため、空家等に関する対策の実施に要する費用に対する補助、地方交付税制度の拡充その他の必要な財政上の措置を講ずるものとする」と定めています。補助の枠組みが市町村の計画に紐づいているので、隣の市と条件が違うのはむしろ制度どおりです。
相談先も法律に位置づけがあります。同法第12条は「市町村は、所有者等による空家等の適切な管理を促進するため、これらの者に対し、情報の提供、助言その他必要な援助を行うよう努めるものとする」としています。契約前に窓口へ行くこと。着工してからでは受け付けられない制度が多く、この順序を間違えると取り返しがつきません。
業者選びの注意点
- 解体業登録 or 建設業許可を持っているか
- マニフェスト(産業廃棄物管理票)を発行してくれるか
- 近隣挨拶・養生シート設置を含むか
- 見積りは3社以上比較する
- 不法投棄業者を使う極端に安い業者は避ける
1つ目の登録・許可は建設リサイクル法第21条が根拠です。第1項は「解体工事業を営もうとする者(建設業法別表第一の下欄に掲げる土木工事業、建築工事業又は解体工事業に係る同法第三条第一項の許可を受けた者を除く。)は、当該業を行おうとする区域を管轄する都道府県知事の登録を受けなければならない」とし、第2項は「前項の登録は、五年ごとにその更新を受けなければ、その期間の経過によって、その効力を失う」としています。つまり建設業許可を持っているか、解体工事業の登録を受けているかのどちらかが必要で、登録は5年で切れます。
確認は現地でもできます。同法第33条は「解体工事業者は…その営業所及び解体工事の現場ごとに、公衆の見やすい場所に、商号、名称又は氏名、登録番号その他主務省令で定める事項を記載した標識を掲げなければならない」と定めており、掲げない場合は同法第53条第3号により10万円以下の過料の対象です。着工後に現場へ行って標識が出ているかを見るだけでも、確認になります。
工事が終わったら報告を受け取ってください。同法第18条第1項は「対象建設工事の元請業者は、当該工事に係る特定建設資材廃棄物の再資源化等が完了したときは…その旨を当該工事の発注者に書面で報告するとともに、当該再資源化等の実施状況に関する記録を作成し、これを保存しなければならない」と定めています。記録を作らない・虚偽の記録を作る・保存しない場合は同法第53条第1号により10万円以下の過料です。
さらに第18条第2項は「前項の規定による報告を受けた発注者は、同項に規定する再資源化等が適正に行われなかったと認めるときは、都道府県知事に対し、その旨を申告し、適当な措置をとるべきことを求めることができる」としています。不法投棄が疑われるときに、発注者が使える窓口が法律に用意されているということです。報告書を受け取らずに精算を終えないでください。
解体〜売却の典型スケジュール
- 解体業者3社に見積りを依頼し、内訳を比較する
- 建設リサイクル法第12条第1項の書面で説明を受ける
- 契約(同法第13条第1項の書面を相互に交付)・近隣挨拶
- 石綿の事前調査。届出対象特定工事に当たるなら作業開始の14日前までに都道府県知事へ届出
- 建設リサイクル法第10条第1項の届出を着手の7日前までに都道府県知事へ
- 解体工事
- 再資源化等の完了報告(同法第18条第1項)を書面で受け取る
- 滅失登記を滅失の日から1か月以内に申請(不動産登記法第57条)
- 売却活動開始(売却の流れ)
石綿の届出が必要になる場合、実質的に最も早い期限は「作業開始の14日前」です。事前調査の結果が出るまで対象かどうか分からないので、調査を早めに済ませることが日程管理の要になります。
参考・出典
- e-Gov法令検索 - 建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(第10条 対象建設工事の届出等、第12条 届出に係る事項の説明等、第13条 請負契約に係る書面の記載事項、第18条 発注者への報告等、第21条 解体工事業者の登録、第33条 標識の掲示、第51条・第53条 罰則)
- e-Gov法令検索 - 建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律施行令(第2条 建設工事の規模に関する基準・床面積80㎡)
- e-Gov法令検索 - 大気汚染防止法(第18条の15 解体等工事に係る調査及び説明等、第18条の17 特定粉じん排出等作業の実施の届出、第18条の18 計画変更命令、第34条・第35条 罰則)
- e-Gov法令検索 - 大気汚染防止法施行令(第10条の2 特定粉じんを多量に発生する等の原因となる特定建築材料)
- e-Gov法令検索 - 建築基準法(第42条 道路の定義、第43条 敷地等と道路との関係)
- e-Gov法令検索 - 不動産登記法(第57条 建物の滅失の登記の申請、第164条 過料)
- e-Gov法令検索 - 地方税法(第349条の3の2 住宅用地の課税標準の特例、第350条 固定資産税の税率、第359条 賦課期日、第702条の3・第702条の4 都市計画税)
- e-Gov法令検索 - 空家等対策の推進に関する特別措置法(第12条 所有者等による空家等の適切な管理の促進、第29条 財政上の措置及び税制上の措置等)
補助金制度は自治体で要件が異なります。必ず市区町村窓口で最新情報をご確認ください。