特定空き家制度
「空家等対策特別措置法」により、著しく劣化・危険な空き家は自治体が「特定空き家」に認定できます。認定に続いて勧告を受けると住宅用地特例の対象から外れ、固定資産税が最大6倍に跳ね上がります。
判定基準(主な4分類)
- 倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態(屋根の変形、柱の傾き、基礎の破損等)
- 著しく衛生上有害となるおそれのある状態(汚水漏出、ゴミ等の放置による悪臭・害虫)
- 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態(外壁の落書き・破損、草木の著しい繁茂)
- その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切な状態(動物の侵入、不特定者の侵入)
この4つは、空家等対策の推進に関する特別措置法第2条第2項が定める「特定空家等」の定義そのものです。同条第1項は、前提となる「空家等」を「建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地」と定めています。つまり使われていない状態が常態になっていることが出発点で、たまに帰省して使っている家屋はそもそも空家等に当たりません。国や地方公共団体が所有・管理するものも除かれます。
また同法第5条は、所有者又は管理者に対し「周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、空家等の適切な管理に努める」ことを求めています。ここでいう所有者等には管理者も含まれるため、登記名義人でなくても実際に管理を任されている人は責務の対象になります。
2023年改正で新設:管理不全空き家
特定空き家の一歩手前として、「そのまま放置すれば特定空き家になるおそれのある空き家」を「管理不全空き家」として認定できるようになりました。こちらも勧告を受けると住宅用地特例の対象から外れます。早期の軽微な段階から行政介入が可能に。
根拠は同法第13条で、令和5年法律第50号による改正として2023年12月13日から施行されています。手順は2段階です。まず第1項で、市町村長が「特定空家等に該当することとなることを防止するために必要な措置」をとるよう指導できます。その指導をしてもなお状態が改善されず、特定空き家になるおそれが大きいと認めるときに、第2項で勧告に進みます。したがって管理不全空き家でいきなり勧告が出ることはなく、必ず指導が先に来ます。指導の段階で修繕や立木竹の伐採に着手すれば、税負担が変わる勧告まで至らずに済みます。
固定資産税が6倍になる仕組み
住宅用地の小規模部分(200㎡まで)は、固定資産税の課税標準が通常の1/6に軽減されています。特定空き家(および管理不全空き家)として勧告を受けた土地はこの特例の対象から除かれ(地方税法349条の3の2第1項)、課税標準が通常評価額に戻るため、税額は最大で約6倍になります。
条文の作りを正確にたどると、地方税法第349条の3の2第1項は「住宅用地」の課税標準を価格の3分の1と定めたうえで、その「住宅用地」の定義そのものから、空家等対策の推進に関する特別措置法第13条第2項の勧告を受けた管理不全空家等の敷地と、同法第22条第2項の勧告を受けた特定空家等の敷地を除いています。特例が「停止される」のではなく、その土地が住宅用地として扱われなくなる、という構造です。だからこの後に説明する小規模住宅用地の1/6も、都市計画税の特例も、まとめて使えなくなります。
「6倍」になるのは200㎡以下の部分だけ
よく「特定空き家になると固定資産税が6倍」と言われますが、6倍という数字が当てはまるのは敷地のうち200㎡以下の部分です。地方税法第349条の3の2は2つの率を使い分けています。
- 第2項(小規模住宅用地):住宅用地のうち200㎡以下の部分は、課税標準が価格の6分の1。敷地が200㎡を超える場合は、面積を住居の数で割った値が200㎡を超えるときに「200㎡×住居の数」に相当する部分がここに入ります
- 第1項(一般住宅用地):それ以外の住宅用地の部分は、課税標準が価格の3分の1
つまり200㎡を超える部分はもともと1/3にしか軽減されていないので、特例が外れても3倍にしかなりません。敷地が広いほど、全体で見た増加倍率は6倍から下がっていきます。次の2例は、固定資産税の標準税率1.4%(地方税法第350条第1項)と、都市計画税の税率の上限0.3%(同法第702条の4)を使って計算したものです。土地の1㎡あたりの評価は一様と仮定し、住居は1戸としています。
| ケース | 特例あり | 勧告を受けた後 | 倍率 |
|---|---|---|---|
| 例1 敷地150㎡ 土地の評価額900万円 | 固定資産税 900万×1/6=150万円 → 21,000円 都市計画税 900万×1/3=300万円 → 9,000円 合計30,000円 | 固定資産税 900万円 → 126,000円 都市計画税 900万円 → 27,000円 合計153,000円 | 固定資産税 6.0倍 (全部が200㎡以下) |
| 例2 敷地300㎡ 土地の評価額1,800万円 | 固定資産税 1,200万×1/6+600万×1/3 =400万円 → 56,000円 都市計画税 1,200万×1/3+600万×2/3 =800万円 → 24,000円 合計80,000円 | 固定資産税 1,800万円 → 252,000円 都市計画税 1,800万円 → 54,000円 合計306,000円 | 固定資産税 4.5倍 (100㎡分は3倍止まり) |
例2で固定資産税が4.5倍にとどまるのは、300㎡のうち100㎡分がもともと1/3の軽減しか受けていなかったからです。自分の土地が何倍になるかは、敷地面積が200㎡を超えているかどうかで変わります。納税通知書に同封される課税明細書には「小規模住宅用地」「一般住宅用地」の区分と、それぞれの課税標準額が記載されているので、そこを見れば自分がどちらの側にどれだけ持っているかが分かります。
都市計画税の特例も同時に外れる
見落とされやすいのが都市計画税です。市街化区域に土地・家屋を持っている場合、固定資産税と一緒に課税されます。地方税法第702条の3は、「第349条の3の2第1項の規定の適用を受ける土地」について都市計画税の課税標準を価格の3分の2とし(第1項)、「第349条の3の2第2項の規定の適用を受ける土地」すなわち小規模住宅用地について3分の1とする(第2項)と定めています。
勧告を受けると第349条の3の2の適用がなくなるため、この2つの軽減も連動して外れます。都市計画税の増え方は小規模部分で3倍、それ以外の住宅用地部分で1.5倍で、固定資産税ほど急ではありませんが、上の例1では9,000円が27,000円に、例2では24,000円が54,000円になります。「固定資産税が6倍」という言い方だけを見ていると、この分を見落とします。
特例が外れた年に、いきなり計算どおりの額になるとは限らない
上の表は、課税標準がそのまま評価額に戻った場合の単純計算です。実際の宅地には負担調整措置があり、地方税法附則第18条第1項は、令和6年度から令和8年度までの各年度分について、税額が「前年度分の課税標準額に、その年度の課税標準となるべき価格の5%を加算した額」を課税標準とした場合の税額を超えるときは、その額にとどめると定めています。上限は価格の70%相当、下限は20%相当です(同条第2項・第3項)。
さらに同附則第18条の3第1項は、小規模住宅用地から小規模住宅用地以外へ変わったような用途変更宅地等について、前年度課税標準額の算定自体を置き換える調整を置いています。したがって「勧告の翌年度からただちに6倍」とは限らず、数年かけて上がっていく場合があります。実際にいくらになるかは、市区町村の資産税課(固定資産税課)に自分の土地の課税明細を示して確認してください。逆に言えば、上がり方がゆるやかでも下がる保証はなく、放置している限り増えた税額は毎年続きます。
指定までの行政手続き(段階)
- 助言・指導:所有者への連絡・是正のお願い
- 勧告:住宅用地特例の解除(この時点で6倍化)
- 命令:従わない場合は最大50万円の過料
- 行政代執行:自治体が強制的に解体、費用は所有者に請求
条文の位置は次のとおりです。特定空家等については、空家等対策の推進に関する特別措置法第22条第1項が助言・指導、第22条第2項が勧告、第22条第3項が命令を定めています。命令に違反した者への50万円以下の過料は第30条です。管理不全空き家の場合は第13条第1項の指導・第2項の勧告までで、命令や代執行の規定はありません。
なお第22条第2項の勧告には「相当の猶予期限」を付けることとされており、第3項の命令も同様です。勧告書に書かれた期限までに措置を終えれば、命令には進みません。
命令の前に、意見を述べる機会が用意されている
命令はいきなり出せません。第22条第4項は、命令をしようとする場合、あらかじめ命じようとする措置・その理由・意見書の提出先と提出期限を書いた通知書を交付し、意見書と自分に有利な証拠を提出する機会を与えなければならないと定めています。
- 通知書の交付を受けた者は、交付を受けた日から5日以内に、意見書の提出に代えて公開による意見の聴取を請求できます(第22条第5項)
- 請求があったときは、市町村長は出頭を求めて公開の意見聴取を行わなければなりません(同条第6項)
- 意見聴取の期日・場所は、期日の3日前までに通知され、公告されます(同条第7項)
- 意見聴取では、証人を出席させ、自分に有利な証拠を提出できます(同条第8項)
この5日という期限は短く、通知書を放置すると反論の機会そのものを失います。通知書が届いたら、まず日付を確認してください。なお第22条第3項の命令については行政手続法第3章(不利益処分)の規定が適用されないと定められており(同条第15項)、行政手続法側の聴聞・弁明の手続ではなく、この空家法独自の手続で進みます。
命令を受けると、現地に標識が立つ
第22条第13項は、命令をした場合には標識の設置その他の国土交通省令・総務省令で定める方法により、その旨を公示しなければならないと定めています。第14項により、標識は命令の対象となった特定空家等に設置することができ、所有者等はその設置を拒んだり妨げたりしてはならないとされています。
金銭的な負担とは別に、近隣に対して命令を受けた家であることが可視化されるということです。売却を考えている場合、この段階に至ってからでは条件面で不利になります。
代執行の費用は、税金と同じ方法で取り立てられる
命令を受けた者が措置を履行しないとき、履行しても十分でないとき、期限までに完了する見込みがないときは、市町村長は行政代執行法の定めるところに従い、自ら措置を行うか第三者に行わせることができます(第22条第9項)。行政代執行法第2条は、他人が代わってすることのできる行為について、他の手段では履行の確保が困難で、不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときに代執行できると定めています。
費用の扱いが重要です。行政代執行法第5条により、実際に要した費用の額と納期日を定めて文書で納付が命じられ、第6条により、その費用は国税滞納処分の例により徴収することができるとされています。さらに行政庁は国税・地方税に次ぐ順位の先取特権を持ちます。つまり請求書を無視しても済む話ではなく、財産の差押えという形で回収されうる債務になります。空家法第22条第12項も、後述する略式代執行等の費用について同法第5条・第6条を準用しています。
立入調査を拒むと20万円以下の過料
第9条第2項は、第22条第1項から第3項まで(助言・指導、勧告、命令)の施行に必要な限度で、市町村長が所有者等に報告を求め、職員等に空家等と認められる場所へ立ち入って調査させることができると定めています。第30条第2項により、報告をしない・虚偽の報告をする・立入調査を拒み、妨げ、忌避した者は20万円以下の過料の対象です。
一方で、立入調査には手続の保障もあります。第9条第3項により、原則として立入りの5日前までに所有者等へ通知しなければならず(通知が困難な場合を除く)、第4項により調査する者は身分証明書を携帯し、請求があれば提示しなければなりません。第5項は、この立入調査の権限を犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならないと明記しています。
指定を避ける/解除する方法
- 自治体から連絡・勧告が来たら必ず応答する(放置が最悪)
- 壊れた屋根・外壁の応急処置
- 草木の剪定・除草
- 動物や不審者の侵入を防ぐ施錠・フェンス設置
- 管理できない場合は管理委託契約を結ぶ
- 根本解決:売却・賃貸・解体して更地化
税負担の観点で最も効くのは、勧告に至る前に状態を改善することです。住宅用地特例から除かれるのは第13条第2項・第22条第2項の勧告を受けた敷地なので、助言・指導の段階で対応が済めば税額は変わりません。すでに勧告を受けている場合は、勧告の原因となった状態を解消したうえで、その旨を自治体に伝えて勧告の撤回を求めることになります。撤回の判断も、次年度の課税をどう扱うかも市町村の所管なので、窓口への連絡が起点になります。
所有者が不明な空き家の行方
2023年の改正で、所有者不明空き家について財産管理人制度が活用しやすくなり、自治体主導で処分が進められるようになりました。
加えて第22条第10項は、過失なく命令の相手方を確知できないとき(過失なく助言・指導や勧告の相手方を確知できないために命令の手続を踏めないときを含む)に、市町村長がその者の負担で措置を自ら行い、または命じた者・委任した者に行わせることができると定めています。この場合はあらかじめ、期限内に措置を行うべき旨と、行わないときは市町村長等が措置を行って費用を徴収する旨を公告することとされています。第11項は、災害その他非常の場合に命令を出す時間がないときの緊急の措置を定めています。
いずれも費用は所有者側の負担で、第12項により行政代執行法第5条・第6条が準用されます。相続登記をせずに名義を放置していると、この「確知できない」側に回りやすくなります。相続後の登記については相続登記の義務化のページで扱っています。
参考・出典
指定・勧告を受けた場合は、速やかに自治体窓口にご相談ください。