相続した空き家を売るときに3,000万円特別控除が使える条件と申請方法
相続した空き家を売却した際の売却益(譲渡所得)に対して、最大3,000万円まで控除できる特例があります。「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除」と呼ばれるこの制度。適用条件・2023年の改正内容・確定申告の方法・計算例を詳しく解説します。
「空き家の3,000万円特別控除」とは
「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除」(租税特別措置法35条3項)は、2016年に創設された税制措置です。国土交通省の不動産取引価格情報によると、地方の空き家は都市部に比べて流通量が少なく、適正価格での売却に時間を要するケースが多いため、本特例を活用した早期売却が有効です。
相続した空き家の売却益から最大3,000万円を控除できるため、多くのケースで税負担を大幅に軽減できます。
なお、被相続人が生前住んでいた「マイホームを売った場合の3,000万円特別控除」(同条1項)とは別の制度です。空き家の場合は、被相続人が生前住んでいたものの、亡くなった後は空き家になっていた家屋が対象です。
この特例自体に適用期限がある
本特例は平成28年(2016年)4月1日から令和9年(2027年)12月31日までの間に売却した場合に限り適用されます。個々の売却における「相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」という期限(後述)とは別に、この特例そのものの期限にも注意してください。今後の税制改正で延長・変更される可能性があります。
適用できる条件
空き家の3,000万円特別控除を適用するには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
建物に関する条件
- 1981年(昭和56年)5月31日以前に建築された建物(旧耐震基準の建物)
- または耐震改修工事を行い耐震基準を満たした建物
- 区分所有建物(マンション等)を除く
被相続人・居住状況に関する条件
- 被相続人が相続開始の直前まで一人で居住していたこと
- 被相続人が相続開始直前に老人ホーム等に入居していた場合も、一定条件を満たせば適用可(2019年の改正で拡充)
- 相続開始直前に被相続人以外の者が居住していないこと
売却に関する条件
- 相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却
- 売却価格が1億円以下(家屋と土地の合計)
- 売却の時点で建物が現行の耐震基準を満たしていること、または建物を取り壊して更地として売却すること
- 売却先が、自分の配偶者や一定の親族、同族会社など「特別の関係にある人(会社)」でないこと
1億円の判定は他の相続人の売却分も合算する
対象の家屋・敷地を複数の相続人で分けて売却している場合や、複数年にわたって売却した場合は、それらの売却代金をすべて合算して1億円以下かどうかを判定します。また、この特例の適用を受ける相続人は、他の相続人に対して売却した旨や売却日などを通知する義務があります(措置法35条6〜8項)。
「3年を経過する日の属する年の12月31日まで」とは
例えば2022年5月1日に相続が開始した場合、3年を経過する日は2025年5月1日。この日が属する年は2025年。よって2025年12月31日が期限です。「相続から3年以内」ではなく、その年の年末が期限になります。
2023年改正:更地売却も適用可能に・共有の場合の控除額
2023年(令和5年)の税制改正により、空き家の3,000万円特別控除に重要な変更が加えられました。
改正前後の比較
- 改正前:建物を耐震改修して売却するか、取り壊して更地として売却する場合に適用可。ただし、更地売却の場合は「売却前に建物を取り壊すこと」が条件(売主が解体して売却)。
- 改正後(2024年1月1日以降の売却から適用):買主が建物を取り壊す条件で売買契約が成立し、売却の翌年2月15日までに実際に取り壊された場合も適用可能に(買主側の解体も認められる)。
相続人が複数いる場合の控除額
2024年1月1日以降の売却から、相続人が3人以上いる場合の控除額が変更されました。
- 相続人1〜2人:控除額3,000万円
- 相続人3人以上:控除額2,000万円
老人ホーム入居中の被相続人の扱い(2019年改正)
被相続人が老人ホーム等に入居していた場合でも、①要介護認定等を受けていた、②老人ホーム入居後も自宅を賃貸・事業の用に供していなかった、という条件を満たせば適用対象になります。
確定申告での申請方法と必要書類
空き家の3,000万円特別控除を受けるには、売却した年の翌年に確定申告を行う必要があります。たとえ控除後の課税所得がゼロになっても申告は必要です。
確定申告の手順
- 譲渡所得の計算
売却価格 − 取得費 − 譲渡費用 = 譲渡所得。ここから3,000万円特別控除を差し引きます。
- 確定申告書の作成
「分離課税用の申告書」と「譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)」を作成します。
- 必要書類の添付
下記の書類を申告書に添付して提出します。
- 税務署への提出
売却した年の翌年2月16日〜3月15日に税務署または e-Taxで提出します。
主な必要書類
- 譲渡所得の内訳書(国税庁ウェブサイトからダウンロード)
- 売買契約書(売却時)のコピー
- 被相続人の居住を証明する書類(住民票の除票、戸籍の附票等)
- 登記事項証明書(法務局で取得)
- 耐震改修工事の証明書(耐震改修して売却した場合)
- 建物の取壊し証明書(更地売却の場合)
- 市区町村が発行する「被相続人居住用家屋等確認書」
「被相続人居住用家屋等確認書」の取得
この確認書は、売却した不動産の所在する市区町村窓口で取得します。申請に必要な書類や手続き方法は自治体によって異なるため、事前に確認してください。
適用できないケース
以下の場合は、空き家の3,000万円特別控除が適用できません。
- 売却時に被相続人が居住中(生前売却):空き家になってから相続した場合に限る
- 売却前に賃貸に出していた:相続後に賃貸に供した場合は適用不可(ただし被相続人の居住用として入居前の期間は可)
- 1982年(昭和57年)以降に建築された建物:旧耐震基準外(耐震改修すれば適用可)
- 売却価格が1億円超
- 相続から3年を経過する年の12月31日後の売却
- 区分所有建物(マンション)
- 生計を同一にする親族に売却した場合
相続後に一度でも使用・賃貸すると適用不可になる場合あり
相続後に自分が居住したり、賃貸に出したりすると、空き家の特別控除の適用ができなくなる場合があります。売却を検討しているなら、相続後すぐに動くことを強くお勧めします。
「取得費加算の特例」との選択関係
相続税を納めた場合に使える「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」(措置法39条・取得費加算の特例)は、この空き家の3,000万円特別控除とは同一の不動産について併用できません。どちらか一方を選択して適用します。相続税をまとまった額で納めている場合は取得費加算の特例の方が有利になることもあるため、両方の特例で試算した上で有利な方を選ぶことをおすすめします。詳しい計算方法は相続した不動産を売却した年の確定申告で解説しています。
計算例:売却益3,500万円の場合の節税額
具体的な計算例で節税効果を確認します。
前提条件
- 売却価格:4,000万円
- 取得費:500万円(不明のため売却価格の5%の概算取得費)
- 譲渡費用(仲介手数料等):130万円
- 所有期間:5年超(長期譲渡所得)
- 相続人:1名
特別控除なしの場合
- 譲渡所得:4,000万円 − 500万円 − 130万円 = 3,370万円
- 税額:3,370万円 × 20.315% = 約685万円
空き家の3,000万円特別控除を適用した場合
- 譲渡所得:3,370万円 − 3,000万円 = 370万円
- 税額:370万円 × 20.315% = 約75万円
- 節税額:約610万円
この例では約610万円の節税効果があります。取得費の証明書類がある場合や、相続税の取得費加算特例と組み合わせる場合は、さらに税負担が変動します。具体的な試算は税理士にご相談ください。