相続した親の家を「売る・貸す・残す」どう選ぶ?税金・費用・リスクの比較
相続した実家をどうするか判断に迷う方は多いです。「売るのは親への申し訳なさがある」「貸すのも管理が大変そう」「とりあえず残しておこう」という心理から先送りにしがちですが、放置するほどリスクと費用は膨らみます。本記事では「売る・貸す・残す」の3つの選択肢を税金・費用・リスクの観点から比較し、判断の目安を解説します。
3つの選択肢の概要
相続した実家の処分方針は大きく「売る・貸す・残す」の3択に分かれます。それぞれの特徴を先に整理しておきます。
| 選択肢 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 売る | 現金化・管理不要・将来リスクゼロ | 譲渡所得税が発生する場合あり・買い手が見つからないリスク |
| 貸す | 賃料収入・建物を保持 | 管理コスト・入居者トラブル・退去後の原状回復費用 |
| 残す | 判断を先送りできる・思い出を保持 | 固定資産税・維持費の継続負担・老朽化リスク |
どの選択肢が最適かは、物件の築年数・立地・相続人の状況・将来の活用見込みによって異なります。以降で各選択肢を詳しく見ていきます。
売る:譲渡所得税と3,000万円特別控除
相続した不動産を売却した場合、売却益(譲渡所得)に対して所得税・住民税が課されます。ただし、相続した空き家には特別な控除が用意されています。
譲渡所得税の計算
譲渡所得は「売却価格 − 取得費 − 譲渡費用 − 特別控除」で計算します。
- 取得費:相続した場合、被相続人が取得した価格を引き継ぎます。取得費が不明な場合は売却価格の5%が概算取得費として認められます。
- 譲渡費用:不動産会社への仲介手数料・測量費・解体費用など
- 税率:所有期間5年超(長期)は20.315%、5年以下(短期)は39.63%
相続の場合、被相続人の所有期間も通算できるため、多くのケースで「長期譲渡所得(20.315%)」として課税されます。
空き家売却の3,000万円特別控除
「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除」を適用すると、3,000万円まで譲渡所得を控除できます。主な適用条件は以下のとおりです。
- 被相続人が相続直前まで一人で住んでいた(老人ホーム等への入居も条件付きで可)
- 1981年(昭和56年)5月31日以前に建築された建物(または耐震基準を満たすよう改修した建物)
- 相続の開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却
- 売却価格が1億円以下
相続税の取得費加算特例
相続税を支払った場合、相続開始から3年10ヶ月以内に売却すると、支払った相続税額の一部を取得費に加算できます。この特例との重複適用に注意が必要です(一方しか選べないケースがある)。
売却のデメリット
地方・郊外の物件では買い手が見つからない場合があります。また、売却後は取り戻せないため、将来的に活用価値が高まる見込みがある場合は慎重な判断が必要です。
貸す:賃料収入・管理コスト・リスク
空き家を賃貸に出すことで賃料収入を得つつ、建物を保持できます。住宅用地の特例も継続適用されるため固定資産税の増加もありません。
賃料収入と収支
賃料の相場は物件の立地・築年数・広さによって大きく異なります。都市部では安定した需要がある一方、地方・農村部では賃料が低く、空室リスクも高くなります。
賃料収入は不動産所得として確定申告が必要です。修繕費・管理費・固定資産税・減価償却費などを経費として計上できます。
管理コストと入居者リスク
- リフォーム費用:入居前の修繕・クリーニング費用。老朽化した建物では数十万〜数百万円かかるケースも
- 管理委託費用:不動産管理会社に委託する場合、月額賃料の5〜10%程度
- 空室リスク:地方の物件は長期空室になるケースが多い
- 入居者トラブル:家賃滞納・近隣トラブル・原状回復費用の争い
- 退去後のリフォーム:退去のたびに修繕費用が発生
注意:一度貸したら返してもらいにくい
日本の借地借家法は借主(入居者)を強く保護しています。一度賃貸に出すと、貸主の都合で退去させることは原則として困難です。将来的に自分や家族が使う予定があれば、賃貸に出す前に慎重に検討してください。
残す:固定資産税・維持費・将来リスク
「とりあえず残す」という判断は、継続的なコストと将来リスクを抱える選択でもあります。
固定資産税・都市計画税
空き家を保有する限り、毎年固定資産税・都市計画税がかかります。住宅用地の特例が適用されている限りは軽減されますが、特定空家等や管理不全空家等に指定されて勧告を受けると特例が外れ、税負担が最大6倍になります。
維持管理費用
建物の維持・管理には定期的なコストがかかります。
- 草刈り・清掃:年数万円〜
- 通気・換気のための訪問管理:遠方の場合は管理委託費用が発生
- 水道・電気の基本料金(維持のために契約継続が必要な場合)
- 建物の小修繕:雨漏り・外壁補修など不定期に発生
将来的な相続問題
「残す」を選択し続けると、将来的に次世代(子・孫)が同じ問題を抱えることになります。相続人が増えるほど(相続が重なるほど)権利関係が複雑化し、売却や解体の意思決定が困難になります。
築年数・立地別の判断目安
どの選択肢が最適かの判断目安を、築年数と立地の組み合わせで整理します。
都市部・人口増加エリアの物件
- 築20年以内:賃貸に出すのが最も効率的。需要が高く、空室リスクが低い。
- 築20〜40年:リフォーム費用と賃料収入のバランスを試算して判断。売却も有効。
- 築40年超・旧耐震:解体後に更地売却または建て替えが有力候補。耐震改修費用が高額になるケースが多い。
地方・人口減少エリアの物件
- 立地・外観が良い物件:空き家バンクや移住支援施策を活用した売却・賃貸を検討。
- 老朽化が著しい物件:早期売却(値段を下げてでも)または相続土地国庫帰属制度の活用を検討。
- 需要がほぼゼロの立地:維持を続けることのコストと、解体費用(その後の固定資産税増加)を比較して判断。
判断の原則
「もったいない」という感情より、10年間の維持コストと最終的な売却価格・解体費用を数値で比較することが重要です。本サイトの試算ツールを活用してください。
専門家への相談タイミング
不動産の処分は金額が大きく、税制・法律の複雑な問題が絡むため、適切なタイミングで専門家に相談することが重要です。
不動産会社への相談
売却・賃貸を検討する段階で、複数の不動産会社に査定を依頼しましょう。1社だけの査定では相場感がわかりません。売却価格・想定賃料・リフォーム費用の見積もりを比較することで、どの選択肢が経済的に優れているか判断できます。
税理士への相談
譲渡所得税の計算、相続税の取得費加算特例の活用、3,000万円特別控除の適用可否など、税務判断が必要な場面では税理士に相談してください。特に、相続税申告から3年10ヶ月の期限があるため、早めの相談が重要です。
司法書士への相談
相続登記(名義変更)の手続きには司法書士が専門家です。2024年4月以降は相続登記が義務化されており、3年以内の申請が必要です。