配偶者居住権とは?|亡くなった人の家に、配偶者が終身無償で住み続けられる権利
配偶者居住権は、亡くなった人の家に住んでいた配偶者が、その家に無償で住み続けられる権利です。民法は、遺産分割で取得するとされたとき、または遺贈の目的とされたときに取得できると定め、存続期間は別段の定めがなければ配偶者の終身の間です。第三者に譲り渡すことはできず、増改築や賃貸には所有者の承諾が要ります。登記をすると、家を買った人にも権利を主張できます。
配偶者居住権とは:誰が、どうやって取得するか
民法1028条は、被相続人の配偶者が、被相続人の財産だった建物に相続開始の時に居住していた場合に、その建物の全部について無償で使用・収益をする権利を取得できるとしています。取得できるのは、次のとおりです。
| 取得の方法 | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 遺産分割 | 遺産分割の協議で、配偶者が配偶者居住権を取得するとされたとき | 1028条1項1号 |
| 遺贈(遺言) | 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき | 1028条1項2号 |
| 家庭裁判所の審判 | 共同相続人の間に合意があるとき、または、配偶者の生活を維持するために特に必要があると認められるとき | 1029条 |
出典:民法1028条・1029条、法務省「残された配偶者の居住権を保護するための方策が新設されます。」Q2〜Q4。
- 期間:存続期間は配偶者の終身の間です。遺産分割の協議・遺言・審判で別の定めをしたときは、その定めによります(1030条)。
- 共有の場合:被相続人が相続開始の時に建物を配偶者以外の人と共有していたときは取得できません(1028条1項ただし書)。夫婦で共有していた建物は対象になるとされています。
- 遺言の注意:法務省は、令和2年4月1日より前にされた遺言では配偶者居住権を設定できないと注意しています。
法務省は、メリットとして、配偶者が自宅に住み続けながら、預貯金などほかの遺産も取得できる点を挙げています。たとえば、遺産が自宅2,000万円と預貯金3,000万円で、妻と子の相続分が1対1のとき、妻が自宅の所有権を取ると預貯金は500万円しか取れません。配偶者居住権を1,000万円と評価して取得すれば、預貯金を1,500万円取得できます(法務省の例)。
配偶者短期居住権との違い
名前が似た「配偶者短期居住権」は、別の権利です。相続開始時に被相続人の建物に無償で住んでいた配偶者が、一定の期間だけ住み続けられる権利で、遺産分割や遺言の手続は要りません(民法1037条)。
| 項目 | 配偶者居住権 | 配偶者短期居住権 |
|---|---|---|
| 住める期間 | 終身の間(別段の定めがあればその期間) | 遺産分割で建物の帰属が確定した日か、相続開始から6か月を経過する日の遅い日まで。遺贈や相続放棄の場合は、消滅の申入れから6か月 |
| 取得するには | 遺産分割・遺贈・審判で取得する | 相続開始時に無償で居住していれば、条文上、権利を「有する」 |
| 登記 | できる | できない |
| 建物が第三者に譲渡されたとき | 登記をしていれば主張できる | 主張できない |
出典:民法1030条・1031条・1037条、法務省 Q11〜Q14。配偶者が配偶者居住権を取得したときは、配偶者短期居住権は消滅します(1039条)。
登記:いつ、どこで、いくらか
民法1031条1項は、居住建物の所有者に、配偶者へ配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負わせています。法務省は、登記の意味を次のように説明しています。
- 登記の効果:登記をすると、居住建物を譲り受けた人などの第三者に、取得した配偶者居住権を主張できます。権利の優劣は登記の先後で決まるため、取得したらできるだけ早く登記するよう案内しています。
- 登記する場所:配偶者居住権を取得した建物の所在地を管轄する法務局です。申請書の書き方や必要書類は、法務局のホームページで案内されています。
- 登記される内容:建物の登記事項のほか、存続期間と、第三者に建物の使用・収益をさせることを許す旨の定めがあるときはその定めです(不動産登記法81条の2)。
- 登録免許税:配偶者居住権の設定の登記は、不動産の価額の1000分の2です(登録免許税法別表第一第一号(三の二))。仮に不動産の価額を1,000万円とすると、税額は2万円です。
「不動産の価額」にあたる金額の決め方は、条文のこの欄には書かれていません。登録免許税の計算は、申請先の法務局にご確認ください。
相続税ではどう評価されるか
配偶者居住権は、相続税でも財産として評価されます。相続税法23条の2は、権利ごとの評価の式を次のように定めています。
| 評価する権利 | 評価の式 | 条文 |
|---|---|---|
| 配偶者居住権 | 建物の時価 − 建物の時価 × (耐用年数 − 経過年数 − 存続年数)÷(耐用年数 − 経過年数)× 複利現価率 | 23条の2第1項 |
| 居住建物(所有権) | 建物の時価 − 配偶者居住権の価額 | 同条第2項 |
| 敷地を使う権利 | 土地の時価 − 土地の時価 × 複利現価率 | 同条第3項 |
| 敷地(所有権) | 土地の時価 − 敷地を使う権利の価額 | 同条第4項 |
出典:相続税法23条の2。時価は「配偶者居住権が設定されていないものとした場合」の相続開始時の時価です。
- 耐用年数:所得税法施行令の耐用年数のうち居住建物に係るものに1.5を乗じた年数です。6か月以上の端数は1年とし、6か月に満たない端数は切り捨てます(相続税法施行令5条の7第2項)。
- 存続年数:存続期間が配偶者の終身の間のときは、配偶者居住権が設定された時の配偶者の平均余命です(同条第3項第1号)。
- 複利現価率:存続年数に応じ、法定利率による複利の計算で現価を算出するための割合として、財務省令で定められています(23条の2第1項第3号)。
- 建物の一部を賃貸している場合・共有の場合:賃貸していない部分や被相続人の持分に応じた部分の価額で計算します(同施行令5条の7第1項・第4項)。
法務省の資料には、遺産分割の話合い用に事務当局が示した簡易な評価方法の例もあります。同年齢の夫婦が35歳で木造の自宅を新築し、妻が75歳のときに夫が亡くなった例で、土地建物の価値4,200万円のうち、配偶者居住権は1,500万円(約35%)、負担付きの所有権は2,700万円です。この例は遺産分割のための評価の一例で、相続税法23条の2の評価とは別の計算です。
デメリット:できなくなること
配偶者居住権は、所有権より低い価額で居住を確保できる分、使い方に制約があります。民法と法務省の説明にあるのは、次の点です。
- 譲渡できない:配偶者居住権は譲渡できません(民法1032条2項)。
- 増改築・賃貸は所有者の承諾が要る:居住建物の改築・増築、または第三者に使用・収益をさせるには、所有者の承諾が必要です(同条3項)。家族や家事使用人との同居は、法務省が可能としています。
- 修繕と費用は配偶者の負担:配偶者は居住建物の使用・収益に必要な修繕ができ、通常の必要費を負担します(1033条・1034条)。相当の期間内に必要な修繕をしないときは、所有者が修繕できます。
- 用法に反すると消滅させられる:従前の用法に従う義務や、承諾を得る義務に違反し、所有者が相当の期間を定めて催告しても是正しないときは、所有者は意思表示で配偶者居住権を消滅させられます(1032条4項)。
- 登記がないと第三者に主張できない:家が譲渡されたときに、居住権を主張できるかは登記の先後で決まります(法務省 Q6)。
- 消滅したら返還する:配偶者居住権が消滅したときは、居住建物を返還する必要があります。配偶者が建物の共有持分を持っている場合は、所有者は返還を求められません(1035条)。
居住権が付いた家を売るには
売却について、民法と法務省が書いているのは次の範囲です。
- 配偶者居住権そのものは売れません。譲渡できない権利なので(1032条2項)、老人ホームに入るなどで居住権が不要になっても、第三者に売って資金にすることはできません(法務省 Q9)。
- 居住権を手放す方法:法務省は、配偶者が配偶者居住権を放棄することを条件に、これで利益を受ける建物の所有者から金銭の支払を受けることは可能だとしています。
- 建物の所有者が家を売る場合:配偶者居住権の登記があると、居住建物を譲り受けた人にも権利を主張できます(法務省 Q6、民法1031条2項・605条)。登記された居住権が付いたままの家は、居住権の負担を伴う家になります。
- 貸して収入を得る:所有者の承諾を得れば、第三者に建物を賃貸して賃料収入を得られます(法務省 Q9)。
居住権が付いた家の売却相場や、買い手の見つかりやすさは、民法・法務省の資料には書かれていません。配偶者居住権は遺産分割の協議や遺言で設定するので、家を将来売る可能性がある場合は、設定の前に相続人の間で確認しておく必要があります。複数の相続人がいて分割の時期に迷うときは遺産分割に期限はある?、相続税の配偶者の軽減は配偶者の税額軽減とはで説明しています。
よくある質問
配偶者居住権は、配偶者なら誰でも取得できますか?
取得できるのは、被相続人の財産だった建物に相続開始の時に居住していた配偶者で、かつ、遺産分割で取得するとされたとき、または遺贈の目的とされたときです(民法1028条1項)。被相続人が相続開始の時に建物を配偶者以外の人と共有していた場合は取得できません(同項ただし書)。法務省は、遺言で設定するには、被相続人が亡くなった時点でも配偶者がその建物に居住していることが必要だと説明しています。
配偶者居住権は、登記しないとどうなりますか?
権利そのものは取得できますが、法務省は、登記をすると居住建物を譲り受けた人などの第三者に主張できるようになり、権利の優劣は登記の先後で決まると説明しています。トラブルを避けるには、取得したらできるだけ早く登記するよう案内しています。民法1031条1項は、居住建物の所有者に、配偶者へ設定の登記を備えさせる義務を負わせています。
配偶者が亡くなったら、配偶者居住権はどうなりますか?
配偶者居住権の存続期間は、別段の定めがなければ配偶者の終身の間です(民法1030条)。民法1036条は、使用貸借の終了を定める597条3項(借主の死亡によって終了する)を配偶者居住権に準用しており、配偶者が亡くなると居住権は終了します。条文上、配偶者居住権を相続人が引き継ぐ定めはありません。
婚姻期間が20年以上だと、何が変わりますか?
婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が、他方に居住用の建物またはその敷地を遺贈・贈与したときは、遺産分割で、その分を「相続財産の先渡し」として扱わない意思を表示したものと推定されます(民法903条4項)。民法1028条3項は、この規定を配偶者居住権の遺贈に準用しています。法務省も、婚姻20年以上の夫婦が遺言で配偶者居住権を設定した場合は、原則として遺産分割で配偶者の取り分が減らされないと説明しています。
配偶者居住権がある家の固定資産税は、誰が払いますか?
法務省は、建物の固定資産税の納税義務者は所有者なので、配偶者居住権が設定されていても所有者が納税するとしています。配偶者は建物の通常の必要費を負担するため(民法1034条)、所有者は固定資産税を納付した場合に、その分を配偶者へ請求できると説明しています。
老人ホームに入ることになったら、配偶者居住権はどうなりますか?
法務省は、配偶者居住権は配偶者の居住を目的とする権利なので、第三者に譲り渡すことはできないとしています。そのうえで、配偶者居住権を放棄することを条件に、これで利益を受ける建物の所有者から金銭の支払を受けることは可能だとしています。また、所有者の承諾を得れば、建物を第三者に賃貸して賃料収入を得ることもできると説明しています。
参考・出典
- e-Gov法令検索 民法(第903条・第1028条〜第1041条)
- e-Gov法令検索 不動産登記法(第81条の2)
- e-Gov法令検索 登録免許税法(別表第一)
- e-Gov法令検索 相続税法(第23条の2)
- e-Gov法令検索 相続税法施行令(第5条の7)
- 法務省 残された配偶者の居住権を保護するための方策が新設されます。
- 法務省 配偶者の居住権を長期的に保護するための方策(配偶者居住権)
- 法務省 配偶者の居住権を短期的に保護するための方策(配偶者短期居住権)
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の取得・登記・評価は、司法書士・税理士または所轄の法務局・税務署にご確認ください。