相続手続き 読了時間:約9分

遺産分割に期限はある?10年を過ぎると変わること、相続税・相続登記など期限のある手続き

遺産分割そのものに期限はありません。共同相続人は、いつでも協議で分割できます(民法第907条)。ただし相続開始から10年を過ぎると、特別受益・寄与分を考えず、法定相続分で分けることになります(令和5年4月施行の民法改正、第904条の3)。あわせて、相続税の申告(10か月)、相続登記(3年)、分割が申告期限に間に合わないときの特例の扱いなど、遺産分割の周りには期限のある手続きが並んでいます。原文で確かめた期限を、表にまとめました。

遺産分割に期限はない、でも10年で変わる

民法第907条第1項は、共同相続人は、被相続人が遺言で禁じた場合や、分割しない契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部または一部の分割ができると定めています。何か月以内、何年以内に分けなければならない、という規定はありません。

ただし、放っておいてよいわけではありません。自分の状況に近いものから読んでください。

期限のある手続き一覧

遺産分割の前後に来る、期限のある主な手続きを、近い順に並べます。

手続き期限過ぎたら
相続放棄・限定承認自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内単純承認をしたものとみなされる。家庭裁判所に請求して期間を伸ばせる
準確定申告相続の開始を知った日の翌日から4か月以内国税庁の案内ページに記載なし
相続税の申告・納税死亡を知った日の翌日から10か月以内加算税や延滞税がかかる場合がある。分割が済んでいなくても延びない
相続登記相続と所有権の取得を知った日から3年以内正当な理由がなければ10万円以下の過料の対象
小規模宅地等の特例・配偶者の税額軽減原則は申告期限までの分割。未分割なら申告期限から3年以内に分割3年を過ぎると、原則として特例を使えない
分割後の更正の請求分割のあったことを知った日の翌日から4か月以内更正の請求ができなくなる
遺産分割成立後の登記遺産分割の成立の日から3年以内正当な理由がなければ10万円以下の過料の対象
具体的相続分での分割相続開始から10年以内に家庭裁判所へ請求法定相続分(または指定相続分)での分割になる

出典:民法第904条の3・第915条・第921条、国税庁タックスアンサー No.2022・4158・4205・4208、法務省「相続登記の申請義務化について」。「過ぎたら」の列の「単純承認」「更正の請求ができなくなる」は、条文と国税庁の案内から読み取れる内容の説明です。

10年を過ぎると何が変わるか

令和5年4月1日に施行された改正民法で、第904条の3が加わりました。相続開始の時から10年を経過した後にする遺産分割には、特別受益(第903条・第904条)と寄与分(第904条の2)の規定を適用しない、という内容です。つまり、生前贈与を受けた人の取り分を減らしたり、介護や家業の手伝いをした人の取り分を増やしたりする調整ができなくなり、法務省の説明では、法定相続分(または指定相続分)で分けることになります。

法務省は、この改正の理由を、長期間がたつと生前贈与や寄与分に関する書類が散らばり、関係者の記憶も薄れて、具体的相続分の算定が難しくなるため、と説明しています。

比べる点10年を過ぎる前10年を過ぎた後
分け方の基準具体的相続分(特別受益・寄与分を考える)法定相続分(または指定相続分)
分割の方法遺産分割遺産分割のまま(共有物分割ではない)
家庭裁判所への請求できる(第907条第2項)できる(裁判手続は家庭裁判所の管轄)
全員が合意したとき協議で決められる具体的相続分による分割も可能

出典:民法第904条の3、法務省「具体的相続分による遺産分割の時的限界」。

10年を過ぎていても具体的相続分で分けられる例外が、2つあります(第904条の3ただし書)。

  1. 10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割を請求したとき。
  2. 10年の期間の満了前6か月以内に、遺産分割を請求できないやむを得ない事由が相続人にあった場合に、その事由が消えた時から6か月を経過する前に、その相続人が家庭裁判所に請求したとき。法務省は、被相続人が遭難して死亡していたが、その事実が確認できず請求できなかった場合を例にしています。

話し合いが長引きそうなときは、10年になる前に家庭裁判所へ請求しておくことが、この規定の枠組みで具体的相続分を守る方法です。実際にどう進めるかは、弁護士や家庭裁判所の窓口に確認してください。

令和5年3月以前の相続は令和10年3月31日まで猶予

第904条の3は、改正法の施行前(令和5年3月31日まで)に始まった相続の遺産分割にも適用されます。ただし、すぐに適用されると不利益が大きいため、改正法の附則第3条が猶予を設けています。相続開始から10年を経過する時と、施行の時(令和5年4月1日)から5年を経過する時のいずれか遅い時までに家庭裁判所へ請求すれば、従来どおり具体的相続分で分けられます。

相続が始まった時期具体的相続分を守る目安理由
令和5年4月1日の時点で、すでに10年が過ぎていた令和10年3月31日の経過時まで施行から5年のほうが遅い
令和5年4月1日以後、令和10年3月31日までの間に10年になる令和10年3月31日の経過時まで施行から5年のほうが遅い
令和10年3月31日より後に10年になる相続開始から10年を経過する時まで相続開始から10年のほうが遅い

出典:民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則第3条、法務省「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」(令和8年4月版)の図。

表の期限は、いずれも「この時までに、相続人が家庭裁判所に遺産分割を請求する」ことが必要になる目安です。附則第3条には、10年の期間の満了前6か月以内にやむを得ない事由があった場合の読み替えもあります。自分の相続がどの行にあたるか迷うときは、法務局や弁護士に確認してください。

相続税の申告期限に間に合わないとき

相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日(通常は死亡の日)の翌日から10か月以内です(国税庁 No.4205)。国税庁は、分割されていないという理由で申告期限が延びることはないと案内しています(No.4208)。

遺産分割がまとまっていないときは、次のように進みます(国税庁 No.4208、No.4158)。

  1. 民法の相続分で申告・納税する。各相続人が民法に規定する相続分(または包括遺贈の割合)で財産を取得したものとして、計算します。この申告では、小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減が使えません。
  2. 「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付する。配偶者の税額軽減は、申告書または更正の請求書にこの書類を添えたうえで、申告期限から3年以内に分割すれば対象になります(No.4158)。
  3. 分割したら、修正申告または更正の請求をする。実際の分割で税額が増えるなら修正申告、減るなら更正の請求です。更正の請求は、分割のあったことを知った日の翌日から4か月以内です。特例が使えるのは、原則として申告期限から3年以内に分割があった場合に限られます。

申告期限から3年を過ぎる見込みでも、やむを得ない事情があり税務署長の承認を受けた場合は、その事情がなくなった日の翌日から4か月以内の分割で配偶者の税額軽減の対象になります(No.4158)。小規模宅地等の特例についても、未分割のときの手続きは国税庁 No.4208 を参照するよう案内されています(No.4124)。承認の手続きと、それ以外の特例の扱いは、税務署か税理士に確認してください。

相続税の申告に出す書類は相続税の申告に必要な書類で、小規模宅地等の特例そのものは小規模宅地等の特例とはで説明しています。

相続登記は分割から3年、印鑑証明書の期限は

不動産を相続した人には、2つの期限があります(法務省「相続登記の申請義務化について」)。

正当な理由がないのに怠ると、10万円以下の過料の対象です。令和6年4月1日より前に始まった相続で登記をしていない不動産も、令和9年3月31日まで(取得を知った日が令和6年4月以降ならその日から3年以内)が期限です。分割がまとまらず3年に間に合わないときは、相続人申告登記で基本的義務を果たせます。ただし、追加的義務は相続人申告登記では果たせません。くわしくは相続人申告登記とはで説明しています。

遺産分割協議書に添える印鑑証明書について、法務省の登記手続ハンドブック(遺産分割協議編、令和8年4月)は、相続登記では「作成後3か月以内のものといった制約はありません」と案内しています。協議書には相続人全員が印鑑証明書と同じ印(実印)を押し、遺産分割協議を行った相続人(登記申請人を除く)の印鑑証明書を各1通添えます。なお、税務署や金融機関に出す印鑑証明書の期限は、原文を確かめられなかったため書いていません。提出先の案内で確かめてください。協議書の書き方は遺産分割協議書の書き方にまとめています。

まとまらないとき、分割を止めたいとき

まとまらないときは、共同相続人が家庭裁判所に遺産分割を請求できます(民法第907条第2項)。分け方は、遺産の種類と性質、各相続人の年齢・職業・心身の状態・生活の状況などの一切の事情を考えて決まります(第906条)。

分割を止めておきたいときの制度もあります(第908条)。被相続人は遺言で、相続開始から5年を超えない期間を定めて遺産の分割を禁じることができます。共同相続人は、5年以内の期間を定めて分割しない契約ができ、更新もできますが、その期間の終わりは相続開始から10年を超えられません。

不動産が相続人の共有のままのとき、共有者の1人が行方不明だと、裁判所に頼んでその人の持分を取得したり、譲渡したりする制度があります(民法第262条の2・第262条の3)。ただし、行方不明者の持分が相続財産で、共同相続人間で遺産分割をすべき場合は、相続開始から10年を経過していないと使えません(第262条の2第3項、第262条の3第2項)。共有名義の不動産の扱いは共有名義の不動産を売却・分割するにはで説明しています。

一度成立した遺産分割協議のやり直しについては、期限と税の扱いを原文で確かめられなかったため、この記事では書いていません。弁護士や税理士に確認してください。

よくある質問

遺産分割協議はいつまでにしなければならないのですか?

遺産分割そのものに、いつまでという期限はありません。民法第907条第1項は、共同相続人は遺言で禁じられた場合などを除き、いつでも協議で遺産の全部または一部を分割できると定めています。ただし、相続税の申告(10か月)や相続登記(3年)には期限があり、相続開始から10年を過ぎると分け方の基準が変わります。

相続開始から10年を過ぎたら、もう遺産分割はできませんか?

遺産分割はできます。法務省は、10年を過ぎても分割の方法は遺産分割のままで、共有物分割ではないと説明しています。変わるのは分け方の基準で、特別受益や寄与分を考えた「具体的相続分」ではなく、法定相続分(または指定相続分)で分けることになります(民法第904条の3)。

10年を過ぎていても、具体的相続分で分けることはできますか?

次の場合はできます。①10年を過ぎる前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割を請求したとき。②10年の期間が終わる前の6か月以内に、遺産分割を請求できないやむを得ない事由があり、その事由が消えてから6か月を過ぎる前に請求したとき(民法第904条の3第1号・第2号)。法務省は、相続人全員が具体的相続分で分けることに合意した場合も、具体的相続分による遺産分割ができると案内しています。

令和5年3月以前に亡くなった人の遺産分割にも、10年のルールは適用されますか?

適用されますが、猶予があります。改正法の附則第3条により、相続開始から10年を経過する時と、改正法の施行(令和5年4月1日)から5年を経過する時のいずれか遅い時までは、従来どおり具体的相続分での分割を求められます。法務省の図では、施行時に10年が過ぎていた場合などの猶予の終わりは令和10年3月31日の経過時です。

相続税の申告期限までに遺産分割がまとまらないときは、どうなりますか?

申告期限は延びません(国税庁)。分割されていない財産は、各相続人が民法の相続分で取得したものとして計算して申告・納税します。この申告では、小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減が使えません。申告後に分割したときは、実際の分割に基づいて修正申告または更正の請求ができ、特例も原則として申告期限から3年以内の分割なら使えます。

遺産分割協議書に添える印鑑証明書に、有効期限はありますか?

相続登記では、法務省の登記手続ハンドブックが、印鑑証明書は「作成後3か月以内のものといった制約はありません」と案内しています。税務署や金融機関などに出す印鑑証明書の期限は、この記事では原文を確かめられていないため書いていません。提出先の案内で確かめてください。書き方は遺産分割協議書の書き方にまとめています。

話し合いがまとまらないときは、どうすればよいですか?

協議が調わないとき、または協議ができないときは、各共同相続人が家庭裁判所に遺産分割を請求できます(民法第907条第2項)。分け方は、遺産の種類や性質、各相続人の年齢・職業・心身の状態・生活の状況などの一切の事情を考えて決められます(同法第906条)。

参考・出典

運

空き家計算機 運営事務局

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