亡くなった人の銀行口座の凍結と解除|必要書類と、遺産分割前に払い戻せる額
亡くなった人の口座は、相続人が金融機関に連絡すると、預金の入出金などが原則として制限されます(全国銀行協会)。この記事では、この状態を「口座の凍結」と呼びます。解除(払戻し等)には、遺言書や遺産分割協議書の有無に応じた書類が必要です。遺産分割がまとまる前でも、口座ごとに「相続開始時の預金額×1/3×払戻しを受ける人の法定相続分」までは単独で払い戻せ、同一の金融機関からは150万円が上限です(法務省・全銀協)。
口座が止まるしくみと、解除までの4つの手順
口座名義人が亡くなったら、遺族や遺言執行者等が、預金の相続(払戻し等)の手続を行う必要があります(全銀協)。手続は、まずお取引金融機関に連絡するところから始まります。連絡をすると、具体的な相続の手続の案内があり、連絡と同時に、亡くなった人の口座での取引(預金の入出金等)は原則として制限されます。
相続人ひとりの判断で引き出せないのには理由があります。法務省の資料によると、平成28年12月19日の最高裁大法廷決定により、相続された預貯金債権は遺産分割の対象財産に含まれ、共同相続人による単独での払戻しはできないとされました。生活費や葬儀費用の支払い、相続債務の弁済などの資金需要があっても、遺産分割が終わるまでは払戻しできない状態でした。これを受けて、後述の払戻し制度が設けられています。
解除までの流れは、全銀協の案内で次の4つの手順です。
- 手続のお申出:お取引金融機関に連絡する。
- 必要書類の準備:遺言書の有無など、状況によって書類が異なる。
- 書類の提出:準備した書類と合わせて、金融機関所定の相続手続書類に依頼内容を書き、相続人が署名捺印して提出する。
- 払戻し等の手続:提出後に金融機関で払戻し等が行われる。日数がかかる場合がある。
投資信託など、預金以外の相続の手続は別になります(全銀協)。
解除に必要な書類
全銀協は、金融機関が預金の相続の手続で提出を求める書類を、次の4つの場面に分けて案内しています。
| 場面 | 必要書類 | 注意 |
|---|---|---|
| 遺言書がある | 遺言書 検認調書または検認済証明書(公正証書遺言以外) 被相続人の戸籍謄本または全部事項証明書(死亡が確認できるもの) 預金を相続する人(遺言執行者がいれば遺言執行者)の印鑑証明書 遺言執行者の選任審判書謄本(裁判所で選任された場合) | 遺言の内容で手続と書類が変わる。遺言書と検認を確認できる書類がそろった段階で金融機関に相談 |
| 遺言書がなく、遺産分割協議書がある | 遺産分割協議書(法定相続人全員の署名・捺印) 被相続人の除籍謄本・戸籍謄本または全部事項証明書(出生から死亡まで連続したもの) 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書 相続人全員の印鑑証明書 | 協議書の書き方は遺産分割協議書の書き方 |
| 遺言書も協議書もない | 被相続人の除籍謄本・戸籍謄本または全部事項証明書(出生から死亡まで連続したもの) 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書 相続人全員の印鑑証明書 | 遺産分割前の払戻し制度(次の節)を使える |
| 家庭裁判所の調停調書・審判書がある | 調停調書謄本または審判書謄本(審判書に確定表示がなければ審判確定証明書も) 預金を相続する人の印鑑証明書 | 遺産分割前の払戻し制度の案内も同じ資料にある |
出典:全国銀行協会「預金相続の手続に必要な書類」。相続の方法や内容、お取引金融機関によって必要な書類が異なる場合があるため、くわしくはお取引金融機関に問い合わせるよう案内されています。
戸籍をそろえる手間を減らす方法もあります。法務局は、法定相続情報一覧図の写しを、相続登記のほか被相続人名義の預金の払戻し手続にも使えると案内しています。使えるかどうか分からない手続は、提出先の機関に問い合わせるよう案内されています。一覧図の取り方は法定相続情報一覧図の取り方で説明しています。
遺産分割の前に払い戻せる額
民法909条の2は、各共同相続人が、遺産に属する預貯金債権のうち、相続開始の時の債権額の3分の1に、自分の相続分(民法900条・901条で算定)を乗じた額について、単独で権利を行使できると定めています。ただし、標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して、預貯金債権の債務者(金融機関)ごとに法務省令で定める額が限度です。その額は、法務省令で150万円とされています。
全銀協の案内では、計算は口座ごと(定期預金は明細ごと)に行い、同一の金融機関から払戻しを受ける額の合計は、複数の支店に相続預金があるときはその全支店を通じて150万円が上限です。家庭裁判所の判断は要りません。
| 預金と相続人 | 1人が払い戻せる額 | 計算 |
|---|---|---|
| 1口座600万円、相続人は子2人 | 100万円 | 600万円×1/3×1/2(全銀協・法務省の例) |
| 1口座900万円、相続人は配偶者と子2人 | 配偶者150万円、子75万円 | 配偶者は900万円×1/3×1/2、子は900万円×1/3×1/4 |
| 同じ銀行に900万円と600万円の口座、相続人は子2人 | 150万円 | 計算上は150万円+100万円ですが、同一の金融機関は150万円が上限 |
2行目と3行目は、上の計算式に法定相続分(配偶者1/2、子は残りを等分)を当てはめた例です。実際の額は金融機関で確認してください。
制度を使うときは、本人確認書類に加えて、概ね次の書類が必要です(全銀協)。
- 被相続人の除籍謄本・戸籍謄本または全部事項証明書(出生から死亡まで連続したもの)
- 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
- 預金の払戻しを希望する人の印鑑証明書
書類を提出してから払戻しまでには、内容の確認などのため一定の時間がかかります(全銀協)。
もうひとつの制度として、遺産分割の審判や調停が家庭裁判所に申し立てられているとき、各相続人は家庭裁判所に申し立てて審判を得ると、預貯金の全部または一部を仮に取得し、金融機関から単独で払戻しを受けられます。生活費の支弁等の事情で仮払いの必要性が認められ、ほかの共同相続人の利益を害しない場合に限られます。この場合の払戻額は、家庭裁判所が仮取得を認めた金額です(全銀協)。
払戻しの前に知っておくこと
- 払い戻した分は、あとで調整される:権利を行使した預貯金債権は、その相続人が遺産の一部の分割によって取得したものとみなされます(民法909条の2)。全銀協も、払い戻された預金は後日の遺産分割で、払戻しを受けた相続人が取得したものとして調整されると案内しています。
- 遺言があると使えない場合がある:全銀協は、遺言相続のためにこれらの制度を利用できない場合もあると案内しています。
- 相続放棄を考えているとき:民法921条1号は、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは単純承認をしたものとみなすと定めています(保存行為などを除く)。払戻しがこれにあたるかは、確認した原文からは判断できません。放棄の期限は知った時から3か月以内です(民法915条1項)。払戻しの前に相続放棄の手続を確認してください。
口座の解除そのものの期限は、確認した全銀協の案内に書かれていませんでした。一方、ほかの相続手続には期限があります。
| 手続 | 期限 | 出典 |
|---|---|---|
| 相続の承認・放棄 | 相続の開始を知った時から3か月以内 | 民法915条1項 |
| 準確定申告 | 相続の開始を知った日の翌日から4か月以内 | 国税庁 No.2022 |
| 相続税の申告 | 死亡を知った日の翌日から10か月以内 | 国税庁 No.4205 |
| 相続登記 | 相続で不動産を取得したと知った日から3年以内 | 法務省 |
凍結後の口座に振り込まれる年金
全銀協の案内は、入出金等が原則として制限されると書いており、入金も含まれる書き方です。年金については、日本年金機構が次のように案内しています。
- 亡くなった日の翌日以後に受け取った年金は返す:届出が遅れ、亡くなった日の翌日以後に年金を受け取ったときは、その分を後日返すことになります。
- 死亡届:日本年金機構にマイナンバーが収録されている人は原則不要です。ただし、未支給年金の届出などは必要です。死亡届が必要な場合は、10日(国民年金は14日)以内に出します。
- まだ受け取っていない年金(未支給年金):亡くなった人と生活をともにしていた遺族が受け取れます。請求の際は、請求者の預金通帳を添えます。受け取れる遺族の順位は、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、その他3親等内の親族の順です。
家賃や配当など、年金以外の入金の扱いは、確認した全銀協・法務省の案内に書かれていないため、この記事では説明しません。お取引金融機関に問い合わせてください。
よくある質問
亡くなった人の口座は、いつ止まりますか?
全国銀行協会は、口座名義人が亡くなったことをお取引金融機関に連絡すると同時に、被相続人の口座での取引(預金の入出金等)は原則として制限されると案内しています。連絡をする前にどう扱われるかは、確認した案内には書かれていません。
葬儀費用や当面の生活費のために、遺産分割の前に預金を引き出せますか?
引き出せる制度があります。各共同相続人は、口座ごと(定期預金は明細ごと)に「相続開始時の預金額×1/3×払戻しを受ける人の法定相続分」までなら、家庭裁判所の判断を経ずに、金融機関から単独で払戻しを受けられます。ただし、同一の金融機関からの払戻しは150万円が上限です(法務省・全銀協)。
払戻しに、ほかの相続人の同意は要りますか?
遺産分割前の払戻し制度では、他の共同相続人の同意がなくても、単独で払戻しを受けられます(法務省)。ただし、払い戻された預金は、後日の遺産分割で、払戻しを受けた相続人が取得したものとして調整されます(全銀協)。
遺言書があるときも、遺産分割前の払戻し制度は使えますか?
全銀協は、遺言相続のためにこの制度を利用できない場合もあるので、お取引金融機関に問い合わせるよう案内しています。遺言書がある場合の相続の手続には、遺言書、検認調書または検認済証明書(公正証書遺言以外)、被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本、預金を相続する人(遺言執行者がいれば遺言執行者)の印鑑証明書などが必要です。
口座の解除(相続手続き)に期限はありますか?
確認した全銀協の案内には、解除の手続そのものの期限は書かれていませんでした。ただし、相続の承認・放棄は知った時から3か月以内(民法915条)、準確定申告は相続の開始を知った日の翌日から4か月以内、相続税の申告は死亡を知った日の翌日から10か月以内など、別の手続には期限があります。遺産分割に期限はあるかで期限を一覧にしています。
預金を相続するかどうか迷っているとき、払戻しを受けてよいですか?
民法921条は、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは単純承認をしたものとみなすと定めています(保存行為などを除く)。預金の払戻しがこれにあたるかは、確認した原文からは判断できません。相続放棄を考えているときは、払戻しの前に相続放棄の解説を読み、家庭裁判所や専門家に確認してください。
参考・出典
- 全国銀行協会 預金相続の手続の流れ
- 全国銀行協会 預金相続の手続に必要な書類
- 全国銀行協会 遺産分割前の相続預金の払戻し制度(PDF)
- 法務省 相続された預貯金債権の払戻しを認める制度について(PDF)
- 法務省 民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)
- e-Gov法令検索 民法(第909条の2、第915条、第921条)
- e-Gov法令検索 民法第九百九条の二に規定する法務省令で定める額を定める省令
- 法務局 「法定相続情報証明制度」について
- 日本年金機構 年金受給者が亡くなりました。何か手続きは必要ですか。
- 日本年金機構 まだ受け取っていない年金があります。どうすればいいですか。
- 国税庁 No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)
- 国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
- 法務省 相続登記の申請義務化について