配偶者の税額軽減とは?|1億6千万円か法定相続分までは、配偶者に相続税がかからない仕組み
配偶者の税額軽減は、配偶者が遺産分割などで実際に取得した額が「1億6千万円」と「配偶者の法定相続分相当額」のどちらか多い額までなら、配偶者に相続税がかからない制度です。税額が0円になる場合でも、相続税の申告書に適用を受ける旨を書いて書類を添付しなければ使えません。申告期限までに分割できていない財産は対象外です。配偶者に多く相続させると、二次相続で子の税額が増える場合があります。
配偶者の税額軽減とは:1億6千万円と法定相続分のどちらか多い額
相続税法19条の2第1項は、配偶者の相続税額から、相続税の総額に次の割合を乗じた金額を差し引くと定めています。
- 割合の分子:次のイとロのうち、いずれか少ない金額。
イ:課税価格の合計額に配偶者の法定相続分を乗じた金額(これが1億6千万円に満たない場合は1億6千万円)/ロ:配偶者が取得した財産の課税価格 - 割合の分母:財産を取得した全員の課税価格の合計額
国税庁は、これを「配偶者が実際に取得した正味の遺産額が、1億6千万円と配偶者の法定相続分相当額のどちらか多い金額までは、配偶者に相続税はかからない」制度と説明しています(No.4158)。配偶者と子が相続人のとき、配偶者の法定相続分は2分の1です(民法900条1号)。
| 課税価格の合計額 | 配偶者の法定相続分相当額 | 軽減の上限 |
|---|---|---|
| 1億円 | 5,000万円 | 1億6,000万円(1億6千万円) |
| 2億円 | 1億円 | 1億6,000万円(1億6千万円) |
| 4億円 | 2億円 | 2億円(法定相続分相当額) |
出典:相続税法19条の2第1項、民法900条1号、国税庁 No.4158。配偶者と子が相続人の場合の計算です。課税価格の合計額は、債務や葬式費用を差し引いた正味の遺産額に、加算される贈与財産などを加えた額です。
遺産が3億2千万円以下なら、法定相続分相当額が1億6千万円以下になるため、上限は1億6千万円です。基礎控除など、相続税の計算全体は相続税の計算機で試算できます。
税額が0円でも申告が必要:添付する書類
配偶者の税額軽減は、申告をした人にだけ適用される制度です。相続税法19条の2第3項は、相続税の申告書(期限後申告書・修正申告書を含む)または更正請求書に、適用を受ける旨と計算の明細を書き、財務省令で定める書類を添付した場合に限り適用するとしています。
- 申告期限:相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です(相続税法27条)。
- 添付する書類:国税庁は、税額軽減の明細を記載した申告書に、戸籍謄本等のほか、遺言書の写しや遺産分割協議書の写しなど、配偶者の取得した財産が分かる書類を添えるとしています。遺産分割協議書の写しには、相続人全員の印鑑証明書(協議書に押印したもの)も必要です。
- 書類の一覧:相続税の申告で全員が出す書類と特例ごとの書類は相続税の申告に必要な書類にまとめています。
相続税法27条1項は、課税価格の合計額が基礎控除額を超え、「第十五条から第十九条まで、第十九条の三から第二十条の二まで」の規定による相続税額があるときに申告書を提出すると定めています。この列挙に19条の2(配偶者に対する相続税額の軽減)は入っていないため、条文の文言上、軽減を使って0円になる場合も申告書を出す対象に含まれます。基礎控除以下で相続税そのものがかからないときは、申告書の提出は求められません。
遺産分割が終わっていないとき
軽減は、配偶者が遺産分割などで実際に取得した財産を基に計算します。相続税法19条の2第2項は、申告期限までに分割されていない財産は計算の基礎に含めないと定めています。
| 状況 | 軽減の扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 申告期限までに分割した | 分割で配偶者が取得した財産が対象 | 19条の2第1項 |
| 申告期限までに分割できていない | 未分割の財産は対象外。「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付し、期限から3年以内に分割すれば対象 | 同条第2項、国税庁 No.4158 |
| 3年以内に分割できないやむを得ない事情がある | 税務署長の承認を受けたとき、事情がなくなった日の翌日から4か月以内の分割が対象 | 同条第2項かっこ書 |
| 申告のあとで分割した | 分割成立の日の翌日から4か月以内に更正の請求をする | 国税庁 No.4158 |
出典:相続税法19条の2第2項、国税庁 No.4158。分割の期限と、期限のある手続きの全体は遺産分割に期限はある?で説明しています。
計算例:遺産1億円で、配偶者の取得額を変えると
課税価格の合計額が1億円、相続人が配偶者と子2人の場合です。相続税の総額は630万円(基礎控除4,800万円を引いた5,200万円を法定相続分で分けて税率を掛けた合計。国税庁 No.4152、相続税の計算機と同じ計算)です。軽減の上限は1億6,000万円なので、配偶者の取得額がこの範囲なら、その割合の分だけ総額が減ります。
| 配偶者の取得額 | 子2人の取得額 | 納める相続税の合計 |
|---|---|---|
| 1億円(配偶者が全部取得) | 0円 | 0円 |
| 5,000万円(法定相続分どおり) | 5,000万円 | 315万円 |
| 3,000万円(配偶者が一部だけ取得) | 7,000万円 | 441万円 |
計算式:相続税の総額 ×(1 −「軽減の上限と配偶者の取得額のいずれか少ない額」÷ 課税価格の合計額)。小規模宅地等の特例、生命保険金の非課税、他の税額控除は考えていない概算です。
配偶者が全部を取得すると、取得額1億円は上限1億6,000万円以内なので、軽減により納める税額は0円になります。この表は一次相続(最初の相続)だけの金額です。
二次相続で税が増える場合
配偶者が亡くなって子が相続する相続を、一般に二次相続と呼びます。二次相続では、相続人に配偶者がいないため配偶者の税額軽減は使えません。基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」なので、相続人が子2人なら4,200万円に下がります(国税庁 No.4152)。
先ほどの遺産1億円の例で、配偶者が一次相続で取得した額が、そのまま二次相続の遺産になる(配偶者に自分の財産はなく、使うことも増えることもない)と仮定して、二次相続の税額を足します。
| 一次相続での配偶者の取得額 | 一次と二次の相続税 | 二次相続も含めた合計 |
|---|---|---|
| 1億円 | 一次 0円 + 二次 770万円 | 770万円 |
| 5,000万円 | 一次 315万円 + 二次 80万円 | 395万円 |
| 3,000万円 | 一次 441万円 + 二次 0円 | 441万円 |
二次相続の税額は、子2人が配偶者の遺産を取得するとして、基礎控除と速算表で計算した概算です(相続税の計算機と同じ関数)。
- 一次で全部を配偶者が取得した場合:一次は0円ですが、二次で770万円かかり、合計は770万円になります。法定相続分どおりの合計395万円より375万円多い計算です。
- 配偶者の取得額を抑えた場合:配偶者が3,000万円だけ取得すると、二次は基礎控除の範囲に収まり0円ですが、一次が441万円かかり、合計は441万円です。
- この例で合計が最も少ない分け方:法定相続分どおり(配偶者の取得額5,000万円)で、合計395万円です。
二次相続では配偶者の税額軽減が使えないため、一次で配偶者に寄せた遺産が、二次で子の相続税の対象になります。ただし、実際の金額は変わります。配偶者が自分の財産を持っている場合や、二次相続までに財産を使った場合は、二次の遺産額が変わります。一次から10年以内に二次が起きたときは、相次相続控除(前回の相続税額を1年につき10%逓減した額を控除)があり、二次の税額が下がります(国税庁 No.4168)。どの分け方が有利かは、家族の事情で決まるため、税理士にご確認ください。
よくある質問
配偶者の取得額が1億6千万円を超えると、どうなりますか?
軽減の対象になるのは、配偶者が実際に取得した額のうち「1億6千万円」と「法定相続分相当額」のどちらか多い額までです(国税庁 No.4158)。この額を超えて取得した部分に対応する税額は、軽減されずに配偶者が納めます。相続税法19条の2第1項は、軽減額を、相続税の総額に「上限の額と配偶者の課税価格のいずれか少ない金額」が課税価格の合計額に占める割合を乗じて計算すると定めています。
配偶者の相続税が0円になる場合も、申告は必要ですか?
必要です。配偶者の税額軽減は、相続税の申告書に適用を受ける旨と計算の明細を書き、財務省令で定める書類を添付した場合に限り適用されます(相続税法19条の2第3項)。軽減を使った結果、納める税額が0円になる場合も同じです。申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です(同法27条)。
遺産分割がまとまっていないときは、どうなりますか?
申告期限までに分割されていない財産は、軽減の対象になりません。ただし、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付したうえで、申告期限から3年以内に分割すれば対象になります(国税庁 No.4158)。3年以内に分割できないやむを得ない事情があり、税務署長の承認を受けたときは、その事情がなくなった日の翌日から4か月以内の分割が対象です。期限そのものは遺産分割に期限はある?で説明しています。
申告後に遺産分割がまとまったら、どうすればよいですか?
国税庁は、申告後に行われた遺産分割に基づいて軽減を受けるときは、分割が成立した日の翌日から4か月以内に更正の請求の手続をする必要があるとしています(No.4158)。
隠していた財産にも、軽減は使えますか?
使えません。国税庁は、この制度の対象となる財産には、隠蔽または仮装されていた財産は含まれないとしています(No.4158)。相続税法19条の2第5項は、隠蔽仮装行為に基づいて申告書を提出していた場合などの計算を別に定めています。
配偶者にすべて相続させるのが、一番税金が安いのですか?
一次相続(最初の相続)だけを見れば、遺産が1億6千万円以内なら配偶者に全部を相続させても税額は0円です。ただし、配偶者が亡くなる二次相続では配偶者の税額軽減が使えず、基礎控除も法定相続人が減った分だけ小さくなります。この記事の例(遺産1億円・子2人)では、全部を配偶者が取得すると一次が0円・二次が770万円で、合計は法定相続分どおりの395万円より多くなります。二次相続までに配偶者が財産を使う場合や、10年以内に続く場合の相次相続控除などで金額は変わるため、個別の判断は税理士にご確認ください。
参考・出典
- e-Gov法令検索 相続税法(第19条の2・第27条)
- e-Gov法令検索 民法(第900条)
- 国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減
- 国税庁 No.4152 相続税の計算
- 国税庁 No.4168 相次相続控除
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の適用可否・税額の算定は税理士または所轄の税務署にご確認ください。