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空き家が倒壊したら|隣家や通行人に被害が出たときの所有者の責任(民法717条)・相続した人と相続放棄した人・保険で補償されるか・倒壊しそうなときに行政がすること
空き家が倒れて隣家や通行人に損害が出たとき、民法717条は、建物の設置または保存に瑕疵があれば占有者が、占有者が必要な注意をしていたときは所有者が賠償しなければならないと定めています。所有者の側に「必要な注意をしたから免れる」という定めは、条文にありません。亡くなった所有者の相続人が賠償を求められた判決もあります(倒壊ではない事案)。相続放棄をした人は、放棄の時に建物を現に占有していたかどうかで、保存の義務の有無が分かれます(民法940条1項)。保険は、取得した約款の一例では、補償の対象に入る「住宅」が居住の用に供されている住宅と定義されており、住まなくなった家に当たるかは契約先への確認が要ります。賠償額は事故ごとに違い、このページに相場は載せていません。
| 場面 | 責任を負う人 | 根拠 |
|---|---|---|
| 瓦・外壁が落ちて通行人がけがをした、倒れて隣家を壊した | 占有者。占有者が必要な注意をしたときは所有者 | 民法717条1項 |
| 庭木や竹が倒れて損害が出た | 1項と同じ(竹木の植え付けまたは支えに瑕疵がある場合) | 民法717条2項 |
| 原因を作った別の人がいる(工事をした業者など) | 賠償した占有者・所有者は、その人に求償できる | 民法717条3項 |
| 親の空き家を相続した(遺産分割の前) | 相続人が数人のとき、相続財産は共有。賠償の分担は条文に書かれていない | 民法898条1項 |
| 相続放棄をした | 放棄の時に現に占有していれば、引き渡すまで保存の義務 | 民法940条1項 |
| 所有者が分からない・相続人がいない | 市町村長・利害関係人が、家庭裁判所に相続財産の清算人の選任を請求できる | 空家法14条1項、民法952条1項 |
民法(e-Gov 現行版)と空家等対策の推進に関する特別措置法から作成(2026年10月3日取得)。
自分はどの場合に当てはまるか
- 実家の空き家が古く、倒れないか心配:節5で保険、節6で行政の動き方、節7で壊す前に確かめることを書きました。
- もう隣家や通行人に被害が出た:節1の表のとおり、条文は占有者と所有者の順で責任を定めています。弁護士への相談を先にしてください。保険の連絡は、示談の約束をする前に入れます(日本損害保険協会の注意)。
- 相続したばかりで、まだ誰の名義かも決まっていない:節3に、相続人の立場を書きました。
- 相続放棄を考えている・した:節3の表と、実家を相続放棄したら管理義務はどうなるを見てください。
- 放置すると罰金や固定資産税はどうなるか知りたい:民法717条1項の読み方と特定空家の流れは、空き家を放置するとどうなるに書きました。
- 隣の空き家が危ない:節6の最後に、窓口の例を書きました。
「瑕疵」と「占有者」:判決はどう説明しているか
民法717条1項の中身は、空き家を放置するとどうなるにあります。ここでは、条文の言葉を最高裁判所がどう説明したかを見ます。
最高裁判所第一小法廷は、令和8年1月22日の判決(令和6年(受)第385号、民集80巻1号37頁)で、717条1項本文の趣旨を、「通常有すべき安全性を欠く状態にある工作物を支配管理して上記損害の発生を防止すべき地位にある者に損害賠償責任を負わせること」と説明しています。事案はマンションの共用部分の外壁の亀裂による漏水で、判決は、区分所有者の団体は特段の事情がない限り共用部分の「占有者」に当たるとしました。空き家の倒壊の事案ではありません。
この説明に沿えば、空き家で問題になるのは、建物が通常有すべき安全性を欠いていたか(瑕疵)と、その建物を誰が支配管理していたか(占有者)の2点です。占有者が必要な注意をしていたときは所有者が責任を負う、という順序は717条1項ただし書のとおりです。
庭木・竹と、原因を作った人への求償
717条2項は、1項を、竹木の栽植または支持に瑕疵がある場合に準用します。屋根から落ちた瓦と、倒れた庭木は、同じ考え方で扱われます。3項は、損害の原因について他に責任を負う者があるときは、占有者または所有者は、その者に求償権を行使できると定めています。
相続した人・相続放棄した人は
相続した人
相続人が数人いるとき、相続財産はその共有に属し(民法898条1項)、遺産分割で分けるまで続きます。誰がどの割合で賠償を負うかは、898条には書かれていません。
亡くなった所有者の相続人が請求先になった判決はあります。節4で取り上げた福岡高裁の判決は、賃貸建物の所有者が亡くなったあと、唯一の相続人が、所有者の権利義務を全部承継した者として賠償を命じられました。
相続放棄をした人
相続放棄をした人は、初めから相続人にならなかったものとみなされます(民法939条)。ただし940条1項は、放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人または清算人に引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもってその財産を保存しなければならないとしています。
この940条は、令和3年法律第24号(2023年4月1日施行)で書きぶりが変わりました。e-Gov の2022年12月16日の版は、「放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで…管理を継続しなければならない」でした。「現に占有」の考え方と、義務が終わる時期は、実家を相続放棄したら管理義務はどうなるに任せます。
相続人がいない・全員が放棄した
相続人のあることが明らかでないときは、家庭裁判所が、利害関係人または検察官の請求で相続財産の清算人を選任します(民法952条1項)。空家法14条1項は、市町村長が空き家の適切な管理のため特に必要があると認めるときに、この請求ができると定めています。
判決で確かめられたこと・確かめられなかったこと
裁判所の裁判例検索で、「空き家」「空家」「廃屋」に「倒壊」「崩落」「崩壊」「工作物」「民法717条」「老朽」「外壁」「瓦」などを組み合わせて調べ、候補の全文を読みました。空き家の倒壊で所有者の責任を判断した判決は、見つかりませんでした。この検索には、すべての判決が載っているわけではありません。
| 判決 | 事案 | このページでの使い方 |
|---|---|---|
| 最高裁第一小法廷 令和8年1月22日 令和6(受)385 | マンション共用部分の外壁の亀裂による漏水。区分所有者の団体が717条1項本文の「占有者」に当たるとした | 瑕疵と占有者の説明(節2) |
| 福岡高裁 平成19年3月20日 平成18(ネ)229 | 賃貸建物の2階窓に手すりがなく、入居者が転落死。遺族が、亡くなった所有者の唯一の相続人に請求 | 相続人が請求先になる例(節3)。倒壊の事案ではない |
裁判所「裁判例検索」の判決全文と判示事項から作成(2026年10月3日取得)。
福岡高裁の判決は、原審が請求を棄却したのに対し、窓に手すりがなかったことは建物の設置・保存の瑕疵に当たると判断し、被害者側の過失も大きいとして大幅に減額したうえで、相続人に支払いを命じました。判決は、債務不履行責任と717条の所有者の責任を、あわせて検討しています。
賠償額は、事故の中身で変わります。この判決の金額も、倒壊の場合の目安にはならないため、載せていません。
保険:約款の一例で読む
日本損害保険協会は、個人賠償責任保険を、他人のモノを壊したり他人にケガをさせたりして法律上の損害賠償責任を負う場合に保険金が支払われる保険と説明し、主な事故の例として、自転車で通行人にケガをさせた、買い物中に商品を壊した、飼い犬が他人にかみついたの3つを挙げています。空き家の倒壊は、例に入っていません。
火災保険や自動車保険、傷害保険などの特約としてセットで契約でき、補償の範囲は約款で決まります。損害保険会社の公開している住まいの保険の約款(2026年10月1日以降始期用)の個人賠償責任補償特約には、次の定めがありました。
| 約款の項目 | 約款の言葉 | 読み方 |
|---|---|---|
| 補償の対象(第2条) | 「住宅の所有、使用または管理に起因する偶然な事故」「被保険者の日常生活に起因する偶然な事故」 | 2つのどちらかに当たる事故が対象 |
| 「住宅」の定義 | 「被保険者の居住の用に供されている住宅をいい、別荘等一時的に居住の用に供される住宅を含みます」 | 文言上、居住の用に供されていない建物は含まれていない |
| 「日常生活」の定義 | 「住宅以外の不動産の所有、使用または管理を除きます」 | 空き家の管理が日常生活に入るかは、この除外との関係で確認が要る |
| 支払わない場合(第4条) | 「被保険者が実際に居住せず他人に賃貸されている住宅の所有、使用または管理に起因する損害賠償責任」「地震もしくは噴火またはこれらによる津波」 | 賃貸中で居住していない住宅と、地震等を原因とする損害は対象外 |
「トータルアシスト住まいの保険 ご契約のしおり」(2026年10月1日以降始期用)の個人賠償責任補償特約から作成(2026年10月3日取得)。他の保険会社・他の商品の約款は、定義も除外も異なることがあります。
この約款の一例では、誰も住んでいない空き家の倒壊が補償に当たるかは、「住宅」の定義との関係で確認が要る形になっています。契約している保険の約款(ご契約のしおり)で「個人賠償責任」の「住宅」の定義と免責の欄を読み、保険会社か代理店に、「居住していない相続した家が倒れて他人に損害を与えたとき」を例に書面で確かめてください。
空き家の火災保険そのものは、空き家の火災保険に、保険会社各社の公式FAQと入り方をまとめています。
倒壊しそうなとき:行政がすること・通報の先
市町村ができること
市町村長は、空き家の所在と所有者を把握するための調査ができます(空家法9条1項)。特定空家等への措置に必要な限度で、所有者等に報告を求めたり、職員を立ち入らせて調査したりもできます。立入りの5日前までの通知が必要で、通知が困難なときは例外です(同条2項・3項)。
そのあとの助言・指導、勧告、命令、行政代執行の流れは、空き家を放置するとどうなると特定空家とはにあります。命令の手前の段階の管理不全空家もあります。22条11項は、災害その他非常の場合に、特定空家等が保安上著しく危険な状態にあるなど緊急の措置が必要で、命令を出すいとまがないときは、命令対象者の負担で市町村長が措置を行えると定めています(緊急代執行)。
| 措置 | 令和6年度の件数(全国) | 根拠 |
|---|---|---|
| 助言・指導(特定空家等) | 4,026件(387市区町村) | 空家法22条1項 |
| 勧告(特定空家等) | 600件(158市区町村) | 同条2項 |
| 命令 | 101件(44市区町村) | 同条3項 |
| 行政代執行 | 71件(35市区町村) | 同条9項 |
| 略式代執行 | 81件(75市区町村) | 同条10項 |
| 緊急代執行 | 9件(8市区町村) | 同条11項 |
国土交通省・総務省「空家等対策の推進に関する特別措置法の施行状況等について(令和7年3月31日時点)」から作成。件数は倒壊のおそれに限らず、特定空家等全体への措置です。令和5年度の緊急代執行は3件でした。
隣の空き家が危ないとき
連絡先は空き家のある市区町村で、部署名は違います。神戸市は、建築物が道路に倒壊するおそれがある場合や、瓦・外壁モルタルなどの重い部材が道路などに落下するおそれがある場合を例に、各区の相談窓口(区役所地域協働課)への相談を案内しています(最終更新日2026年4月1日)。豊中市は、老朽化していて倒壊のおそれがある空き家を、建築安全課の窓口としています(更新日2023年4月1日)。
神戸市は、所有者の個人情報に関わることは問い合わせても伝えられないとしています。所有者が分からないときは、法務局やインターネットで登記情報を調べる方法と、前の節のとおり、家庭裁判所の清算人の制度があります。損害を受けるおそれがある側が弁護士に法律相談した場合の相談料を補助する制度を、神戸市は設けています。
壊すならその前に確かめること
倒壊のおそれがあり、壊すと決めた場合に、先に確かめておくことは3つです。
- 費用:公的な料金表はなく、業者の見積もりで決まります。市区町村の補助金の有無とあわせて、空き家解体工事の費用相場と自治体の補助金と解体費用シミュレーターで確かめられます。
- 壊したあとの手続:建物を壊したら、所有者は1か月以内に滅失登記を申請します。手順は建物滅失登記にあります。
- 更地にしたあとの固定資産税:建物がなくなると住宅用地の特例が使えなくなります。土地の維持費に、課税標準の変わり方を書きました。
行政から勧告を受けたあとでも、壊す選択肢は残ります。壊さずに活用する、売るという道は、空き家を放置するとどうなるの対策の節にあります。
よくある質問
空き家が倒れて隣の家を壊したら、賠償しなければなりませんか?
建物の設置または保存に瑕疵があって他人に損害が出たときは、民法717条1項により、まず占有者が賠償する責任を負い、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは所有者が賠償しなければなりません。瑕疵があったかどうか、誰が占有者にあたるかは、建物の状態や管理の事情で決まります。条文だけで「必ず払う」「払わない」とは言えません。
賠償額はいくらくらいになりますか?
損害の中身(壊れた物、けがの程度など)で決まるため、このページに相場は載せていません。今回、裁判所の裁判例検索で取れた判決にも、空き家の倒壊を扱ったものはありませんでした。見積もりや示談の前に、弁護士に相談してください。
台風や地震で倒れた場合も、所有者の責任になりますか?
民法717条が責任の要件にしているのは、工作物の設置または保存の瑕疵です。台風や地震が原因のときに責任が否定されるかを示す原典は、今回の調査では取れませんでした。保険は別の話で、取得した約款の一例には、地震・噴火・津波を原因とする損害には保険金を支払わないという定めがあります。
相続放棄をすれば、空き家が倒れても責任は負いませんか?
民法939条は、放棄した人は初めから相続人にならなかったものとみなすと定めています。一方で940条1項は、放棄の時に相続財産を現に占有しているときは、相続人または清算人に引き渡すまで、自己の財産と同一の注意でその財産を保存しなければならないと定めています。占有していたかどうかで分かれるため、詳しくは「実家を相続放棄したら管理義務はどうなる」を見てください。
個人賠償責任保険で、空き家の倒壊は補償されますか?
商品と特約ごとに違います。取得した約款の一例では、補償の対象は「住宅の所有、使用または管理に起因する偶然な事故」と「日常生活に起因する偶然な事故」で、この「住宅」は被保険者の居住の用に供されている住宅(別荘等一時的に居住の用に供される住宅を含む)と定義され、日常生活からは住宅以外の不動産の所有、使用または管理が除かれていました。住まなくなった家に当たるかは、契約している約款と保険会社への確認が必要です。
隣の空き家が倒れそうです。どこに連絡すればよいですか?
空き家のある市区町村の窓口です。神戸市は倒壊のおそれがある場合や瓦・外壁が道路に落下するおそれがある場合を各区役所の地域協働課への相談の例に挙げ、豊中市は老朽化で倒壊のおそれがある空き家を建築安全課の窓口としています。部署名は市区町村で違うため、まず空き家担当に電話で聞くのが確実です。
所有者が分からない、または相続人がいない空き家が危険なときは?
空家法14条1項は、市町村長が空き家の適切な管理のため特に必要があると認めるときは、家庭裁判所に相続財産の清算人の選任を請求できると定めています。民法952条1項は、利害関係人または検察官の請求で、家庭裁判所が相続財産の清算人を選任すると定めています。
参考・出典
- e-Gov法令検索 民法(第717条・第898条・第939条・第940条・第952条)
- e-Gov法令検索 空家等対策の推進に関する特別措置法(第9条・第14条・第22条)
- 裁判所 裁判例検索 最高裁判所第一小法廷 令和8年1月22日判決(令和6年(受)第385号)
- 裁判所 裁判例検索 福岡高等裁判所 平成19年3月20日判決(平成18年(ネ)第229号)
- 国土交通省・総務省 空家等対策の推進に関する特別措置法の施行状況等について(令和7年3月31日時点)
- 日本損害保険協会 個人賠償責任保険
- 東京海上日動 トータルアシスト住まいの保険 ご契約のしおり(2026年10月1日以降始期用)個人賠償責任補償特約
- 神戸市 近隣の空き家・空き地に困っている
- 豊中市 空き家に関する相談窓口(近隣住民の皆さまへ)
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の事案の判断は、お住まいの市区町村の空き家担当、弁護士、損害保険会社・代理店などにご確認ください。