売却・活用 読了時間:約10分

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親が認知症で家を売りたいとき|成年後見人の選任と居住用不動産の売却許可の流れ

親に意思能力がない状態で結んだ売買契約は無効で(民法3条の2)、子が代わりに売るには、家庭裁判所で成年後見人が選任される必要があります。その成年後見人が親の自宅を売るときは、さらに家庭裁判所の許可が要ります(民法859条の3)。この記事は、成年後見人として売却を進める方と、許可を得たあとの売り先を探す方に向けて、手続の順番・費用・書類を、民法と裁判所の原文で整理します。

認知症の親の家を、子が代わりに売れない理由

親名義の家を売る契約を結べるのは、売主である親本人か、親の代理人として売る権限を持つ人です。この2つの場面が、民法でどう扱われるかを並べます。

場面民法の定め売却への影響
契約の時に意思能力がない3条の2:意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は無効親本人が署名しても、契約は無効になりうる
成年後見人が代わりに売る859条1項:後見人は、被後見人の財産を管理し、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する売買契約は成年後見人が結ぶ
代理権のない人が親の代理人として契約する113条1項:代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人が追認をしなければ、本人に対して効力を生じない親が追認できないと、契約は親に対して効力を持たない

出典:e-Gov法令検索 民法3条の2・113条・859条(2026年10月2日取得)。

3条の2が基準にしているのは、診断名ではなく、契約の意思表示をした時の意思能力です。意思能力があったかどうかの線引きは、条文からは断定できません。「家族だから代わりに売れる」と定める条文は、今回取得した民法の条文には出てきません。代わりに売る権限を持つ人は、859条1項の成年後見人です。

成年後見人の選任:申立ての費用・書類・期間

成年後見人は、家庭裁判所に後見開始の審判を申し立てて選任してもらいます。民法7条は、後見開始の審判を請求できる人に、本人、配偶者、四親等内の親族などを挙げています。子は、この四親等内の親族に当たります。裁判所の案内に書かれた内容を整理します。

項目裁判所の案内補足
申立先本人の住所地の家庭裁判所管轄の裁判所は、裁判所サイトの申立書提出先一覧(家庭裁判所)で調べられる
費用申立手数料は収入印紙800円分、登記手数料は収入印紙2,600円分、連絡用の郵便切手郵便料は裁判所ごとに違う。鑑定が必要な場合は、鑑定費用を負担することがある
期間申立てから審判までおおむね1か月から2か月程度鑑定を行う場合は、更に鑑定を実施する期間が必要
主な書類本人の戸籍謄本・住民票または戸籍附票、候補者の住民票または戸籍附票、本人の診断書、本人情報シート写し戸籍・住民票・診断書は発行から3か月以内のもの
財産・収支の資料預貯金通帳写し、不動産登記事項証明書(未登記なら固定資産評価証明書)、負債の資料、年金額決定通知書、施設利用料の資料など本人の成年被後見人等の登記がされていないことの証明書も必要

出典:裁判所「後見開始」、「成年後見制度(後見・保佐・補助)の概要を知りたい方へ」(2026年10月2日取得)。

申立てをする前に、裁判所の案内にある次の点を確認してください。

判断能力が「欠けているのが通常の状態」ではなく「著しく不十分」「不十分」な場合は、後見ではなく保佐・補助の対象になります。保佐人や補助人が不動産を売るには、家庭裁判所から不動産を処分する代理権を付与してもらう必要があります(民法876条の4・876条の9、裁判所の案内)。

居住用の家を売るには家庭裁判所の許可が要る

成年後見人に選ばれても、親の家を自由に売れるとは限りません。民法859条の3は、成年後見人が成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物またはその敷地について、売却・賃貸・賃貸借の解除・抵当権の設定などをするには、家庭裁判所の許可を得なければならないと定めています。

どの家が「居住用」にあたるか

裁判所の案内は、居住用不動産に、現に住居として使用している場合に限らず、本人が病院や施設に入所していて現在は居住していないが将来居住する可能性がある場合、または入所前に居住していた場合なども含まれるとしています。親が老人ホームに入って空き家になった実家も、これに当たる可能性があります。

居住用以外の不動産(たとえば親が貸している建物や、住んでいない別の土地)は、859条の3の許可の定めには出てきません。ただし、後見監督人が選任されているときは、不動産の権利の得喪を目的とする行為(民法13条1項3号)について、後見人は後見監督人の同意を得る必要があります(民法864条)。

許可の申立ての費用と書類

項目裁判所の案内売却のとき
申立人成年後見人(保佐人・補助人は、不動産を処分する代理権が付与されている場合に限る)子が後見人なら、子が申し立てる
申立先後見開始の審判をした家庭裁判所選任された裁判所に出す
費用申立手数料は収入印紙800円分。郵便料は裁判所ごとに異なる郵便切手でも納付できる
添付書類処分の必要性を証する資料と、処分する不動産の登記事項証明書等売買契約書(案)の写し、評価証明書、不動産業者作成の査定書

出典:裁判所「成年被後見人(被保佐人、被補助人)の居住用不動産の処分についての許可」、居住用不動産処分許可申立書(令和7年7月版)。審理のために必要な場合は、追加書類の提出を求められることがあります。

申立書の様式には、申立ての理由を選ぶ欄があります。選択肢は、親族と同居することになった、施設に入所することになった、施設入所資金のために処分が必要、医療費・生活費のために処分が必要、建物が老朽化し維持すると経費がかさむ、その他です。ほかに、本人の同意の有無、後見監督人がいる場合はその同意の有無、今後の居住場所を書く欄があります。許可の対象は売買契約書の「案」で、契約を結ぶ前に許可を得る形になっています。

査定額の確認や売却の準備は、不動産の売却価格査定の仕組みと複数社比較が重要な理由、評価証明書の取り方は固定資産税評価額の調べ方、実家全体の片付けから売却までの流れは実家じまいの手順と費用の全解説にまとめています。

許可のあとに売り先を探す方へ

許可の申立てには、売買契約書(案)の写しと、不動産業者作成の査定書(売却する場合)を添えます。つまり、許可を申し立てる前に、売り先の候補と査定額が決まっている必要があります。仲介で買主を探す方法と、買取業者に売る方法があります。

買取業者の一つ、ラクウルが公式サイトに書いている内容は次のとおりです(2026年10月2日に確認)。

公式サイトに、成年後見や認知症に関する記載はありません。後見人からの相談を受けられるか、許可の申立てに添える査定書を出せるかは、問い合わせの際に伝えて確認してください。決済は家庭裁判所の許可を得たあとになるため、日程を調整するときに、許可の審判が出る時期を買取側に伝えておく必要があります。

仲介で売る場合の手数料は不動産売却の仲介手数料の仕組みと費用を抑えるための交渉方法、買取業者の選び方は空き家買取業者の選び方、買取の対象は訳アリ物件買取ラクウルとはで整理しています。

「罰則」で調べている方へ:許可なく売ったとき

許可なく売ったらどうなるのか、罰則があるのかを調べる方がいます。取得した原文の範囲で整理します。

個別の事案で、どの責任が生じるかは、原文から断定できません。すでに売ってしまった、売ってしまいそうな状況の方は、弁護士や司法書士にご相談ください。

認知症になる前の対策:家族信託・任意後見

これから親が認知症になるかもしれない段階なら、判断能力があるうちに備える方法があります。ただし、信託契約も法律行為なので、結ぶ時に意思能力が必要です(民法3条の2)。

親がすでに判断能力が十分でない場合は、契約を結ぶ時点の意思能力が問題になるため、本記事の成年後見が現実の選択肢になります。

よくある質問

親が認知症と診断されたら、もう家を売れませんか?

民法3条の2は、法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は無効とすると定めています。条文の基準は診断名ではなく、契約の意思表示をした時の意思能力です。意思能力があったかどうかの判断は、条文から断定できません。迷う場合は、医師や弁護士・司法書士にご相談ください。判断能力がどの程度かによって、裁判所の制度は後見・保佐・補助に分かれています。

子が成年後見人になれますか?

裁判所の案内は、申立書に候補者として書かれた人が必ず選任されるわけではなく、弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職が選ばれたり、複数の後見人が選ばれたりする場合もあると説明しています。希望した人が選ばれなかったという理由では不服申立てはできません。未成年者や破産者などは後見人になれません(民法847条)。

親が施設に入っていて、自宅には誰も住んでいません。それでも家庭裁判所の許可は必要ですか?

裁判所の案内は、居住用不動産に、現に住居として使用している場合に限らず、本人が病院や施設に入所していて現在は居住していないが将来居住する可能性がある場合、または入所前に居住していた場合なども含まれると説明しています。施設に入っているというだけでは、許可が不要になるとは読めません。

居住用不動産の処分許可は、申し立ててから何日かかりますか?

取得した裁判所のページと申立書には、この許可の審理期間の記載はありませんでした。そのため、日数は載せていません。後見開始の申立てから審判までは、裁判所の案内でおおむね1か月から2か月程度(鑑定を行う場合は更に期間が必要)とされていますが、これは許可とは別の手続です。申立先の家庭裁判所に確認してください。

家を売ったら、成年後見をやめられますか?

裁判所の案内は、後見等が開始されると、申立てのきっかけとなったこと(預貯金の解約、遺産分割、保険金の受取など)が解決した後も、本人の能力が回復されるか、本人が亡くなるまで手続は続くと説明しています。家族の意思や本人の希望でやめることはできません。家の売却だけが目的でも、後見は売却後も続きます。

参考・出典

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の事案での意思能力の有無・後見の要否・許可の可否は、医師・弁護士・司法書士・家庭裁判所にご確認ください。

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