不動産を売ると扶養から外れる?|税の扶養は売却益(特別控除後)が62万円を超えると外れる
税の扶養(配偶者控除・扶養控除)は、売った代金ではなく譲渡所得を含む合計所得金額で判定します。基準は令和8年分から62万円以下(令和7年分は58万円以下)で、3,000万円特別控除などを使うときは、引いた後の金額で見ます。売却益が出て62万円を超えた年は、扶養から外れることがあります。社会保険の扶養は税とは別の基準(年間収入の見込み)で、売却による収入の扱いは原文に書かれていないため、加入先の保険者への確認が必要です。
税の扶養は「合計所得金額」で判定される
国税庁 No.1180(扶養控除)と No.1191(配偶者控除)は、扶養親族・控除対象配偶者になる要件の1つに、年間の合計所得金額が一定額以下であることを挙げています。
| 年分 | 合計所得金額 | 給与のみの収入 |
|---|---|---|
| 令和6年分まで | 48万円以下 | 103万円以下 |
| 令和7年分 | 58万円以下 | 123万円以下 |
| 令和8年分から | 62万円以下 | 136万円以下 |
令和8年分の62万円は、令和8年12月1日に施行され、令和8年分から適用される金額です(国税庁 No.1180・1191・1190)。施行日前の適用関係は、国税庁の令和8年度税制改正Q&Aで確認できます。
給与以外の「譲渡所得」も合計所得金額に入る
国税庁 No.1190の説明
給与所得以外に、不動産所得、一時所得、譲渡所得などがある場合でも、年間の合計所得金額が62万円以下であれば、配偶者控除が受けられます。
逆に言えば、不動産を売って出た譲渡所得は、他の所得と合わせて62万円以下に収まっている間だけ、扶養の対象に残れます。給与や年金などの他の所得がある人は、その分だけ売却益に使える余地が小さくなります。
3,000万円特別控除などは「引いた後」の金額で見る
土地・建物の長期譲渡所得(所有期間が5年を超えるもの)は、租税特別措置法第31条第3項第1号により、合計所得金額の計算に含まれます。居住用財産の3,000万円特別控除は同法第35条第1項で、この「長期譲渡所得の金額」を「長期譲渡所得の金額から三千万円を控除した金額」と読み替える形で定められています。そのため、控除を使う場合に合計所得金額へ加わるのは、控除後の金額です。
取得費が分からないときの計算は相続した土地・家の取得費が分からないときで説明しています。売却益がいくらになるかは、譲渡所得の計算ツールで試せます。
売却益が出る例と出ない例
合計所得金額に加わる譲渡所得(特別控除を使う例は控除後)を、このサイトの譲渡所得の計算ツールと同じ計算式で出しました。所有期間5年超、他の所得はないものとして、令和8年分の62万円と比べています。
| ケース | 加わる額 | 判定 |
|---|---|---|
| A:売却2,000万円・取得費5%(100万円)・譲渡費用80万円・特別控除なし | 1,820万円 | 外れる(62万円を超える) |
| B:Aと同じで、3,000万円特別控除を使う | 0円 | 譲渡所得は加わらない |
| C:売却4,500万円・取得費1,000万円・譲渡費用150万円・3,000万円特別控除を使う | 350万円 | 外れる(62万円を超える) |
| D:売却1,000万円・取得費1,200万円・譲渡費用50万円(売却損) | 0円 | 損失は生じなかったものとみなす |
| E:売却600万円・取得費500万円・譲渡費用40万円 | 60万円 | 62万円以下に収まる |
加わる額 = 売却額 −(取得費 + 譲渡費用)。B・Cは3,000万円を引いた後の金額。Dは計算上マイナスですが、損失は生じなかったものとみなされるため0円です(租税特別措置法第31条第1項)。
Aは売却益が1,820万円と62万円を大きく超えるので外れます。Bは同じ売却でも、3,000万円特別控除が使えれば譲渡所得が残りません。Cは売却益が3,350万円あり、控除を使っても350万円が残るため外れます。Eのように売却益が小さければ、他の所得と合わせて62万円以内に収まります。
取得費加算の特例を使う場合も、取得費が増える分だけ譲渡所得は小さくなります(国税庁 No.3267)。どの特例が使えるかは相続した不動産を売却した年の確定申告で整理しています。
外れたときの影響(配偶者・親など)
配偶者は、配偶者特別控除が残ることがある
配偶者の合計所得金額が62万円を超えても、133万円以下なら配偶者特別控除が受けられます。納税者本人の合計所得金額が900万円以下の場合の控除額は次のとおりです(令和8年分以降、国税庁 No.1195)。
| 配偶者の合計所得金額 | 控除額 |
|---|---|
| 62万円以下 | 38万円(配偶者控除) |
| 62万円超 95万円以下 | 38万円 |
| 95万円超 100万円以下 | 36万円 |
| 100万円超 105万円以下 | 31万円 |
| 105万円超 110万円以下 | 26万円 |
| 110万円超 115万円以下 | 21万円 |
| 115万円超 120万円以下 | 16万円 |
| 120万円超 125万円以下 | 11万円 |
| 125万円超 130万円以下 | 6万円 |
| 130万円超 133万円以下 | 3万円 |
| 133万円超 | 0円 |
納税者本人の合計所得金額が900万円を超える場合は、控除額が小さくなります。1,000万円を超えると配偶者控除は受けられません。
売却益を含めた配偶者の合計所得金額が133万円を超える年は、配偶者控除も配偶者特別控除も0円です。
親・子など(配偶者以外)は、62万円を超えると扶養控除がなくなる
配偶者以外の扶養親族には配偶者特別控除のような段階がありません。合計所得金額が62万円を超えた年は、扶養控除(一般の控除対象扶養親族38万円、特定扶養親族63万円、老人扶養親族48万円・同居老親等58万円)を受けられません(国税庁 No.1180)。
扶養している人の所得税は、どれくらい増えるか
控除が受けられなくなると、扶養している人の課税所得が控除額の分だけ増えます。納税者の所得税率が同じ区分の範囲にとどまる場合の、所得税の増加額の目安です(復興特別所得税2.1%を含む)。
| 納税者の税率 | 38万円がなくなる | 63万円がなくなる |
|---|---|---|
| 5% | 約1.9万円 | 約3.2万円 |
| 10% | 約3.9万円 | 約6.4万円 |
| 20% | 約7.8万円 | 約12.9万円 |
| 23% | 約8.9万円 | 約14.8万円 |
| 33% | 約12.8万円 | 約21.2万円 |
所得税の税率は国税庁 No.2260の速算表の区分(5%・10%・20%・23%・33%)。住民税や、勤務先の家族手当などへの影響は含みません。
配偶者特別控除が受けられる場合は、この表より増加額は小さくなります。勤務先の家族手当などの支給条件は、会社の規定で決まっているため、就業規則や人事担当に確認してください。
社会保険の扶養は別の基準
会社員の健康保険の被扶養者になれるかは、税の扶養とは別の基準です。協会けんぽの用語集は、被扶養者の条件として、日本国内に住所があり、被保険者に主として生計を維持されていることと、「収入要件」「同一世帯の条件」を挙げています。
| 項目 | 税の扶養 | 社会保険の扶養 |
|---|---|---|
| 見るもの | その年の合計所得金額 | 認定日以降1年間の見込み収入額 |
| 基準 | 62万円以下(令和8年分から) | 130万円未満(60歳以上・障害者は180万円未満) |
| 売却による収入 | 譲渡所得を含む(特別控除後) | 原文に記載なし。保険者に確認 |
社会保険の基準は日本年金機構の手続き案内。同居の場合は被保険者の収入の半分未満、別居の場合は仕送り額未満という条件も加わります。
日本年金機構の案内には、次のように書かれています。
- 年間収入とは過去の収入ではなく、被扶養者に該当する時点と認定された日以降の、年間の見込み収入額のこと
- 雇用保険の失業等給付、公的年金、傷病手当金や出産手当金も収入に含まれる
- 不動産収入等がある場合の添付書類は、直近の確定申告書の写し
- 年間収入が130万円以上(60歳以上・障害者は180万円以上)見込まれるとき、また後期高齢者医療制度の被保険者になったときは、被扶養者の削除の届出を行う
この案内には、不動産を売った代金や譲渡所得が「年間収入」にどう数えられるかは書かれていません。協会けんぽ、健康保険組合、共済組合など加入先の保険者によって判断される可能性があるため、売る前に勤務先の健康保険担当か保険者へ問い合わせると確実です。配偶者の扶養を外れて厚生年金保険等に加入しない場合は、国民年金第1号被保険者の加入手続きも必要です(日本年金機構)。
翌年の住民税・国保・後期高齢者医療の保険料
売却益が出た年の所得は、翌年度の住民税や保険料に反映されることがあります。原文で確認できる範囲は次のとおりです。
- 住民税:所得割は、前年の1月1日から12月31日までの所得で算定されます(総務省)。
- 国民健康保険:保険料は、加入する世帯の人数や前年の所得などによって決まり、お住まいの市区町村により保険料額が異なります(協会けんぽ)。扶養されている間は、被扶養者に保険料の負担はありません(協会けんぽ)。
- 後期高齢者医療:保険料は、被保険者全員が負担する均等割と、所得に応じて負担する所得割で構成され、世帯の所得が一定以下の場合は均等割が軽減されます(厚生労働省)。
3,000万円特別控除などを引いた後の金額が、住民税や国保の保険料の計算でどう扱われるかは、この記事の原文では確認できていません。売却した翌年の保険料の見込みは、お住まいの市区町村の窓口(国保・後期高齢者医療)で聞いておくと安心です。
売る前に確かめる順番
- 売る不動産の名義は誰か。扶養されている人(配偶者・親など)の名義なら、その人の合計所得金額に譲渡所得が加わります。
- 譲渡所得の計算ツールで、売却益(特別控除を使う場合は控除後)を出す。
- 売却益と他の所得(給与・年金など)の合計が、令和8年分の62万円を超えるかを確かめる。
- 超える場合は、扶養している人の所得税の増え方(上の表)と、社会保険の扶養を外れるかを、加入先に確認する。
- 翌年の住民税・国保・後期高齢者医療の保険料を、市区町村の窓口で聞いておく。
よくある質問
不動産を売った代金そのものが、扶養の判定に入りますか?
税の扶養(国税庁 No.1180・1191)の判定に使うのは「合計所得金額」で、売った代金ではありません。譲渡所得は「売った金額 −(取得費 + 譲渡費用)」で、3,000万円特別控除などを使うときはそれを引いた後の金額が合計所得金額に加わります。社会保険の扶養は年間収入の見込み額で見るため、基準が別です。
売って損が出たときも、扶養から外れますか?
長期譲渡所得の計算で損失が出たときは、所得税に関する法令の適用上、その損失は生じなかったものとみなされます(租税特別措置法第31条第1項)。譲渡所得が合計所得金額に加わることはありません。居住用財産の譲渡損失の損益通算の特例などを使う場合は扱いが変わるため、税務署や税理士に確認してください。
3,000万円特別控除を使えば、扶養から外れませんか?
控除を引いた後の譲渡所得が、令和8年分で62万円以下なら、譲渡所得が原因で外れることはありません。売却益が3,000万円を大きく超えると、控除を使っても残りが62万円を超えて外れます。控除の要件は相続した空き家の3,000万円特別控除で解説しています。
配偶者が外れたら、配偶者控除は全くなくなりますか?
配偶者の合計所得金額が62万円を超えても133万円以下なら、配偶者特別控除が受けられます(納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下の場合。国税庁 No.1195)。売却益が大きく、133万円を超えると控除額は0円です。
売った年だけ外れて、翌年は元に戻れますか?
税の扶養は、その年12月31日の現況と年間の合計所得金額で年ごとに判定されます(国税庁 No.1180)。売却益が出たのは売った年だけなので、翌年に他の所得が基準以下であれば、翌年分は判定し直されます。社会保険の扶養は加入先の保険者の判断になります。