相続時精算課税の110万円控除とは?申告不要の条件と、持ち戻されない理由・デメリット
相続時精算課税は、令和6年1月1日以後の贈与から、年110万円の基礎控除が使えます。1年間に特定贈与者から受けた贈与の合計が110万円以下なら、贈与税の申告は不要で、相続のときに加算される額も0円です。110万円を超えた部分は、特別控除2,500万円の範囲内なら贈与税がかかりませんが、相続のときに贈与時の価額が加算されます。一度選ぶと暦年課税には戻れず、贈与された宅地には小規模宅地等の特例が使えません。
110万円の基礎控除の仕組み
相続時精算課税を使うと、贈与を受けた財産は、特定贈与者ごとに、1年間の合計額から次の順に引いて贈与税を計算します(国税庁 No.4103)。
- 基礎控除110万円:令和6年1月1日以後の贈与から使えます。
- 特別控除2,500万円:前年以前に使った分があれば、残りが限度額です。
- 残りに一律20%:2つの控除を引いてもなお残る部分にだけ、贈与税がかかります。
相続税法21条の11の2は、この基礎控除を60万円と定めています。令和6年1月1日以後の贈与については、租税特別措置法70条の3の2が「同法第21条の11の2第1項の規定にかかわらず」110万円を控除すると定めています。
特定贈与者が亡くなったときは、令和6年1月1日以後の贈与について、贈与を受けた年分ごとに、贈与時の価額の合計額から基礎控除110万円を引いた残額が、相続税の課税価格に加算されます(相続税法21条の15)。110万円以下の年は、引いた残りが0円になるため、加算される額はありません。
毎年贈与したときの比較:暦年課税と相続時精算課税
親から18歳以上の子へ、毎年同じ額を7年間贈与した場合を、暦年課税(特例税率)と相続時精算課税で並べます。暦年課税の加算は、令和13年1月1日以後に相続が開始する場合の7年ルールで、相続開始前3年以内の贈与は全額、3年より前の贈与は合計から100万円を引いて加算した額です。
| 毎年の贈与額 | 暦年課税 | 相続時精算課税 |
|---|---|---|
| 110万円 | 贈与税 0円 加算 670万円 | 贈与税 0円 加算 0円 |
| 200万円 | 贈与税 63万円 加算 1,300万円 | 贈与税 0円 加算 630万円 |
| 300万円 | 贈与税 133万円 加算 2,000万円 | 贈与税 0円 加算 1,330万円 |
7年間の合計。贈与税は7年分の合計額、加算は相続のときに相続税の課税価格へ加算される額。暦年課税で贈与税を払った場合、加算された分に課せられた贈与税は相続税額から引けます(国税庁 No.4161)。
年110万円の贈与は、どちらの課税方法でも贈与税はかかりません。違いは相続のときに出ます。暦年課税では、相続開始前7年以内の贈与が加算の対象ですが、相続時精算課税では110万円以下の年の加算額が0円です。年110万円を超える贈与では、相続時精算課税は超えた分が加算され、暦年課税は相続開始前の期間内の贈与が加算されます。
どちらが有利かは、遺産の総額や贈与を続ける期間、相続税がかかるかどうかで変わります。贈与税の額は贈与税(暦年課税)の計算機と相続時精算課税の計算機で、自分の数字を入れて比べられます。暦年課税の加算が3年から7年に延びる経過措置は暦年贈与の持ち戻しは3年から7年へで説明しています。
申告と選択届出書:110万円以下でも必要な手続き
1年間に贈与を受けた財産の合計が110万円を超える場合は、翌年2月1日から3月15日までに贈与税の申告が必要です。相続時精算課税に係る贈与の合計が110万円以下なら、贈与税の申告は不要です(国税庁 No.4402)。令和5年12月31日以前に相続時精算課税に係る贈与を受けた場合は、基礎控除がないため、110万円以下でも申告が必要です。
初めて相続時精算課税を選ぶ場合は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、贈与者ごとに「相続時精算課税選択届出書」を、受贈者の戸籍の謄本などの書類とともに税務署へ提出します(相続税法21条の9第2項、国税庁 No.4304)。申告が不要でも、届出書の提出は必要です。贈与税の申告書を出す年は、届出書を申告書に添付します。
特別控除2,500万円を使うには、贈与税の期限内申告が必要です(国税庁 No.4409)。基礎控除を引いたあとに課税価格が残る年は、特別控除の額を使って税額が0円になる場合でも、申告書を提出します。
暦年課税の110万円との併用
相続時精算課税は、贈与者ごとに選びます(国税庁 No.4103)。
- 選んだ贈与者(特定贈与者)からの贈与:相続時精算課税で計算します。基礎控除110万円と特別控除2,500万円を引きます。
- 選んでいない贈与者からの贈与:暦年課税で計算し、暦年課税の基礎控除110万円を引きます。
- 同じ年に特定贈与者が2人以上いる場合:相続時精算課税の基礎控除110万円は、特定贈与者ごとの贈与税の課税価格であん分します。
たとえば、父からの贈与は相続時精算課税、母からの贈与は暦年課税、という組み合わせです。国税庁の計算例も、父から1,000万円(相続時精算課税)、母から400万円(暦年課税)を受けた場合を、それぞれの基礎控除110万円で計算しています(No.4409)。
同じ贈与者からの贈与について、相続時精算課税と暦年課税を年ごとに使い分けることはできません。贈与者は、贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母・祖父母などで、受け取る人は、その年の1月1日において18歳以上の、贈与者の直系卑属である推定相続人または孫です。
デメリット:暦年課税に戻れない・小規模宅地等の特例
国税庁の原文から、相続時精算課税を選ぶ前に確かめたい点を挙げます。
- 暦年課税に戻れない:届出書は撤回できません(相続税法21条の9第6項)。その贈与者からの贈与は、選んだ年分以降のすべてに適用されます。
- 加算されるのは贈与時の価額:相続のときに加算される財産の価額は、原則として贈与時の価額(基礎控除を引いた残額)です。
- 小規模宅地等の特例が使えない:相続時精算課税に係る贈与によって取得した宅地等には、この特例を適用できません(国税庁 No.4124)。相続した宅地の評価を減らす特例は、小規模宅地等の特例の計算機で確かめられます。
- 相続税は贈与税と通算して精算する:贈与のときに納めた贈与税は、相続税額から引かれ、引ききれない分は相続税の申告をすると還付されます(国税庁 No.4103)。
不動産を贈与するときは、贈与税のほかに登録免許税と不動産取得税がかかります。不動産を親から子へ生前贈与したときの税金で、評価額2,000万円の宅地を例に、暦年課税と相続時精算課税の贈与税を比べています。
よくある質問
相続時精算課税の110万円の基礎控除は、いつの贈与からですか?
令和6年1月1日以後の贈与からです(租税特別措置法70条の3の2)。令和5年12月31日以前の相続時精算課税に係る贈与には、この基礎控除はありません。
相続時精算課税で、110万円以下の贈与なら申告は不要ですか?
1年間に特定贈与者から贈与を受けた財産の合計が110万円以下なら、贈与税の申告は不要です(国税庁 No.4402)。ただし、初めて相続時精算課税を選ぶ場合は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに「相続時精算課税選択届出書」を提出する必要があります。
110万円以下の贈与は、相続のときに持ち戻されますか?
令和6年1月1日以後の贈与は、贈与を受けた年分ごとに、贈与時の価額の合計額から基礎控除110万円を引いた残額が相続税の課税価格に加算されます(国税庁 No.4103)。110万円以下の年は、引いた残額が0円なので加算される額はありません。
暦年課税の110万円と、相続時精算課税の110万円は併用できますか?
贈与者が違えば併用できます。相続時精算課税は贈与者ごとに選ぶため、選んだ贈与者(特定贈与者)からの贈与は相続時精算課税、それ以外の人からの贈与は暦年課税で、それぞれ基礎控除110万円を引きます。同じ贈与者からの贈与は、一度選ぶと暦年課税には戻せません。
相続時精算課税を選ぶと、小規模宅地等の特例は使えませんか?
相続時精算課税に係る贈与によって取得した宅地等には、小規模宅地等の特例を適用できないと国税庁が説明しています(No.4124)。贈与で宅地を渡す場合は、相続のときの評価の減額が受けられない点を考えに入れます。
相続時精算課税は、孫にも使えますか?
使えます。国税庁は、受贈者を贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の、贈与者の直系卑属である推定相続人または孫と説明しています。贈与者は、贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母・祖父母などです(No.4103)。
相続時精算課税の届出書は取り消せますか?
撤回できません(相続税法21条の9第6項)。一度選択した贈与者については、選択した年分以降のすべての贈与に相続時精算課税が適用され、暦年課税へ変更できません(国税庁 No.4103)。
相続のとき、相続税の基礎控除以下なら申告は必要ですか?
加算した結果が相続税の基礎控除以下なら、相続税の申告は必要ありません。ただし、相続時精算課税適用財産について既に納めた贈与税がある場合は、相続税の申告をすることで還付を受けられます(国税庁 No.4301)。