相続税の物納とは?|条件・物納できる財産とできない財産・収納価額
相続税の物納は、延納によっても金銭で納めることが困難なときに、相続した財産そのもので納める制度です。物納に充てられるのは、不動産・国債・上場株式などの順位のある財産に限られ、境界が明らかでない土地や共有の不動産など、管理処分不適格財産は出せません。申請は納期限までに物納申請書を出して行い、許可は税務署長が決めます。現金で払えないときは、不動産を売って納める方法もあります。
物納できる条件:延納でも困難なときに限る
国税庁 No.4214 は、次の4つの要件をすべて満たすときに、物納を申請できるとしています。
- 延納によっても金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額を限度としていること。
- 物納に充てる財産が、課税価格計算の基礎となった相続財産のうち日本国内にある財産で、所定の順位によること。
- 管理処分不適格財産に当たらないこと。物納劣後財産に当たるときは、他に物納に充てるべき適当な財産がないこと。
- 物納の申請期限(納期限または納付すべき日)までに、物納申請書に物納手続関係書類を添付して、税務署長に提出すること。
相続税法41条1項も、延納によっても金銭で納付することを困難とする事由があるときに、納税義務者の申請により、物納の許可をすることができると定めています。先に延納を検討し、それでも金銭で納められない金額が、物納の対象になります。延納の条件は相続税の延納とは?で説明しています。
物納に充てられる財産の順位
物納に充てられる財産には順位があります。後の順位の財産は、税務署長が特別の事情があると認める場合と、先の順位の財産に適当な価額のものがない場合に限って、物納に充てられます(国税庁 No.4214)。
| 順位 | 財産 | 注意点 |
|---|---|---|
| 第1順位 | 不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等 | 不動産・上場株式のうち物納劣後財産に当たるものは、同じ順位でも後回し |
| 第2順位 | 非上場株式等 | 非上場株式のうち物納劣後財産に当たるものは、同じ順位でも後回し |
| 第3順位 | 動産 | 特定登録美術品は、順位にかかわらず、一定の書類を出せば物納に充てられる |
出典:国税庁 No.4214。相続時精算課税の適用を受けた財産などは、物納の対象にできません。
物納できない財産と、後回しになる財産
管理処分不適格財産(物納に出せない)
国税庁 No.4214 は、物納に不適格な財産(管理処分不適格財産)として、次のようなものを挙げています。不動産では、主に次のとおりです。
- 担保権の設定の登記がされているなど、これに準ずる事情がある不動産
- 権利の帰属について争いがある不動産
- 境界が明らかでない土地
- 隣接する不動産の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の使用ができないと見込まれる不動産
- 他の土地に囲まれて公道に通じない土地で、通行権の内容が明確でないもの
- 他の不動産と社会通念上一体として利用されている不動産もしくは利用されるべき不動産、または二以上の者の共有に属する不動産
- 耐用年数を経過している建物(通常の使用ができるものを除く)
- 管理や処分に要する費用が、収納価額と比べて過大となると見込まれる不動産
- 引渡しに際して通常必要とされる行為がされていない不動産
ほかに、借地権者が不明な土地、敷金の返還債務などを国が負担することになる不動産、社会通念上適切でない目的に使用されている不動産、暴力団員等が使用収益の権利を有する不動産も挙げられています。株式では、譲渡制限株式、担保権の目的となっている株式、権利の帰属に争いがある株式、共有の株式(共有者全員が物納を申請する場合を除く)などが不適格です。
物納劣後財産(他に適当な財産がないときだけ出せる)
次のような財産は、他に物納に充てるべき適当な財産がない場合に限って、物納に充てられます。
- 地上権・永小作権・耕作を目的とする賃借権・地役権・入会権が設定されている土地
- 法令の規定に違反して建築された建物とその敷地
- 現に納税義務者の居住や事業に使われている建物とその敷地(納税義務者がその建物と敷地を物納申請する場合を除く)
- 配偶者居住権の目的となっている建物とその敷地
- 建築基準法の道路に2メートル以上接していない土地
- 市街化区域以外の区域にある土地(宅地として造成できるものを除く)
- 農業振興地域整備計画の農用地区域内の土地、保安林として指定された区域内の土地
- 法令の規定により建物を建てられない土地(建てられる面積が著しく狭くなる土地を含む)
- 過去の事件や事故などで、正常な取引が行われないおそれがある不動産と、これに隣接する不動産
出典:国税庁 No.4214。上のほかにも項目があります。個別の財産が当たるかどうかは、税務署にご確認ください。
現金で払えないとき:不動産を売って納める方法
相続した財産の中に不動産があり、物納に出せない(管理処分不適格財産に当たる)、または物納の許可に時間がかかる場合は、不動産を売って納税資金を作り、一括で納める選択肢があります。売れた代金で相続税を納めるのは、通常の納税と同じで、物納や延納の申請は要りません。
- 売ったときの税金:相続税を払った人が、相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに相続した財産を売ると、払った相続税のうち一定額を取得費に加算できます(国税庁 No.3267)。加算額と税額の差は取得費加算の特例の計算で試算できます。
- 納期限に遅れるとき:納期限までに納められないと、延滞税がかかります。令和8年は年2.8%(納期限の翌日から2か月を経過する日まで)と年9.1%です(国税庁 No.9205)。相続税の延滞税の計算で、日数ごとに試算できます。
- 延納という選択肢:売却に時間がかかるときは、延納の担保にできる土地や建物もあります。相続税の延納とは?で条件と利子税を確認できます。
収納価額と、申請から許可までの流れ
物納財産を国が収納するときの価額(収納価額)は、原則として、相続税の課税価格計算の基礎となったその財産の価額です。小規模宅地等の特例の適用を受けた財産を物納するときは、特例を適用した後の価額になります(国税庁 No.4214)。
| 項目 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 申請期限 | 納期限または納付すべき日までに、物納申請書に物納手続関係書類を添付して提出 | 国税庁 No.4214 |
| 書類が間に合わないとき | 延長届出書で、1回につき3か月を限度に、最長1年まで延ばせる | 国税庁 No.4214 |
| 許可または却下 | 申請期限の翌日から3か月以内。財産が多数などの事由で6か月、積雪などの事由で9か月に延びることがある | 相続税法42条2項・16項・17項 |
| 書類の不備 | 通知を受けた日の翌日から20日以内に訂正や提出をしないと、申請を取り下げたものとみなされる | 相続税法42条10項 |
| 収納のための措置 | 許可しようとするとき、1年を超えない範囲で、廃棄物の撤去など収納に必要な措置を命じられることがある | 相続税法42条20項 |
出典:国税庁 No.4214、e-Gov法令検索 相続税法(第42条)。
物納が難しいと言われる理由
国税庁の原文から読み取れる、物納の許可を得るまでの条件や手間は次のとおりです。
- まず延納を検討する必要がある:要件は「延納によっても」金銭で納付することが困難なことです。延納の許可が得られる範囲は、物納の対象になりません。
- 出せる財産が限られる:管理処分不適格財産は出せず、物納劣後財産は他に適当な財産がないときだけです。共有の不動産、境界が明らかでない土地、担保権が付いた不動産などが該当します。
- 順位がある:先の順位に適当な価額の財産があるときは、後の順位の財産は原則として出せません。
- 審査に時間がかかる:許可または却下まで3か月以内、事由によっては6か月、9か月に延びます。この間の利子税や延滞税は、申請の結果によって変わります。
- 収納のための措置を求められることがある:廃棄物の撤去など、国が収納するために必要な措置を命じられることがあります。
- 許可のあとに取り消されることがある:汚染物質除去の履行義務などの条件付きで許可を受けた財産に、土壌汚染などの瑕疵が判明し、許可後5年以内に求められた措置ができないと、許可が取り消されることがあります。
却下されたときは、却下の日の翌日から20日以内に、他の財産で再申請を1回できます。延納の許可を受けたあとで払えなくなったときは、申告期限から10年以内に限り、延納から物納への変更(特定物納)もできます。特定物納では、収納価額は特定物納申請の時の価額です(国税庁 No.4214)。
よくある質問
現金があっても、物納はできますか?
物納は、延納によっても金銭で納付することを困難とする事由があるときに、その納付を困難とする金額を限度として認められます(国税庁 No.4214、相続税法41条1項)。金銭で納められる分まで物納することはできません。
物納の申請は、いつまでにしますか?
物納しようとする相続税の納期限、または納付すべき日までに、物納申請書に物納手続関係書類を添付して、税務署長に提出します(国税庁 No.4214)。書類が間に合わないときは、物納手続関係書類提出期限延長届出書を出すと、1回につき3か月を限度として、最長1年まで書類の提出期限を延ばせます。
物納した財産は、いくらの価額で受け取ってもらえますか?
国が収納するときの価額(収納価額)は、原則として、相続税の課税価格計算の基礎となったその財産の価額です。小規模宅地等の特例の適用を受けた財産を物納する場合は、特例を適用したあとの価額になります(国税庁 No.4214)。
物納の申請が却下されたら、どうなりますか?
財産が管理処分不適格財産や物納劣後財産と判断されて却下されたときは、却下の日の翌日から20日以内に、その財産に代えて他の財産で物納の再申請を1回に限りできます。延納によっても金銭納付を困難とする事由がないと判断されて却下されたときは、その税額について延納の申請ができます(国税庁 No.4214)。
物納の申請を取り下げると、延滞税はかかりますか?
国税庁は、自分で物納申請を取り下げた場合は、納期限または納付すべき日の翌日から延滞税がかかるとしています。物納申請が却下された場合や、取下げとみなされた場合は、その翌日から却下の日または取下げとみなす日までの期間に利子税がかかります(No.4214)。延滞税の割合と計算は相続税の延滞税の計算で試算できます。
参考・出典
- 国税庁 No.4214 相続税の物納
- e-Gov法令検索 相続税法(第41条・第42条)
- 国税庁 No.4211 相続税の延納
- 国税庁 No.9205 延滞税について
- 国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の適用可否・税額の算定は税理士または所轄の税務署にご確認ください。