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遺言執行者とは|必要な場合(認知・廃除・清算型遺贈で家を売る)・相続人がなれるか・やること・報酬は誰が決めるか・選任の申立て(収入印紙800円)
遺言執行者は、遺言の内容を実現する人です。遺言で指定でき、指定がなければ家庭裁判所が選任できます。遺言による認知と相続人の廃除を書くなら必要で、相続人が務めることもできます(欠格は未成年者と破産者だけ)。報酬は、遺言に定めがあればそれにより、なければ家庭裁判所が定めます。選任の申立ての費用は、遺言書1通につき収入印紙800円と連絡用の郵便切手です。下の表に、遺言執行者のやることを並べました。
| やること | 根拠 | 期限 |
|---|---|---|
| 就職を承諾し、任務を始める | 民法1007条1項 | 承諾したら直ちに |
| 遺言の内容を相続人に通知する | 民法1007条2項 | 任務を開始したら遅滞なく |
| 相続財産の目録を作り、相続人に渡す | 民法1011条1項 | 遅滞なく |
| 遺言による認知があれば、認知の届出をする | 戸籍法64条 | 就職の日から10日以内 |
| 遺言による廃除があれば、家庭裁判所に廃除を請求する | 民法893条 | 遺言が効力を生じた後、遅滞なく |
| 遺贈の履行、名義変更、預貯金の払戻しなど、遺言の内容を実現する | 民法1012条1項・2項、1014条 | 日数の定めは見つからない |
| 任務が終わったら経過と結果を報告し、受け取ったものを引き渡す | 民法1012条3項(645条・646条の準用) | 相続人の請求があればいつでも。終了後は遅滞なく |
民法・戸籍法(令和8年9月3日施行分まで反映)。2026年10月3日、e-Gov法令検索で取得。
自分はどの場合か(書く側・指定された側・相続人)
- 遺言を書く側:遺言で、1人または数人の遺言執行者を指定できます。指定を第三者に任せることもできます。任された人は、遅滞なく指定して相続人に通知します(民法1006条)。
- 遺言執行者に指定された側:就職を承諾したときから、直ちに任務を行います(民法1007条)。相続人などは、相当の期間を定めて、就職を承諾するかどうかの確答を催告できます。期間内に相続人に確答しないと、承諾したとみなされます(民法1008条)。
- 相続人:遺言執行者がいると、相続財産の処分など遺言の執行を妨げる行為ができません(節5)。遺言執行者が決まっていないときは、家庭裁判所に選任を求められます(節7)。
- 遺言で家を売って分けると決まっている相続人:節4にあります。
- 遺言書を見つけた相続人:自宅などで保管された自筆証書遺言は、家庭裁判所の検認が要ります。遺言書の検認にあります。
- 遺言執行者が何もしてくれない・辞めたい:節8にあります。
遺言執行者が必要になる場合
遺言執行者の指定は、遺言者の任意です(民法1006条1項は「指定することができる」)。ただ、遺言の内容によっては、遺言執行者でなければできないことがあります。
| 遺言の内容 | 遺言執行者との関係 | 根拠 |
|---|---|---|
| 子を認知する | 遺言執行者が、就職の日から10日以内に、認知に関する遺言の謄本を添えて届け出る | 民法781条2項、戸籍法64条 |
| 推定相続人を廃除する | 遺言執行者が、遺言が効力を生じた後、遅滞なく家庭裁判所に請求する。廃除は被相続人の死亡の時にさかのぼって効力を生ずる | 民法893条 |
| 財産を遺贈する | 遺言執行者がある場合、遺贈の履行は遺言執行者だけが行える | 民法1012条2項 |
| 特定の財産を相続人に承継させる(特定財産承継遺言) | 遺言執行者は、対抗要件を備えるために必要な行為ができる。預貯金なら払戻しの請求と解約の申入れもできる(解約は預貯金債権の全部が対象の場合に限る)。遺言に別段の意思があれば、それに従う | 民法1014条2項〜4項 |
| 上のどれでもない | 指定するかどうかは遺言者が決める | 民法1006条1項 |
民法・戸籍法(2026年10月3日取得)。
相続人が遺言執行者になれるか
民法が遺言執行者になれないと定めているのは、未成年者と破産者です(民法1009条)。相続人であることや、遺贈を受ける人であることは、欠格事由に入っていません。遺言者が相続人の1人を指定していることは、条文の上では妨げがないということです。
- 家庭裁判所が選ぶとき:候補者を申立書に書けます。家庭裁判所は、遺言執行者となるべき者の意見を聴いて選任します(家事事件手続法210条2項)。
- 数人いるとき:任務の執行は過半数で決めます。遺言に別段の意思があれば、それに従います。各遺言執行者は、保存行為をすることができます(民法1017条)。
- 人に任せるとき:自己の責任で第三者に任務を行わせることができます。遺言に別段の意思があれば、それに従います(民法1016条)。
相続人が兼ねるかどうかは、遺言の内容とほかの相続人との関係で決めることになります。どちらがよいかは、条文からは言えません。
遺言で家を売って分けると決まっているとき(清算型遺贈)
遺言に、不動産を売却し、その代金から費用や債務を差し引いた残りを分ける、と書く形があります(清算型遺贈と呼ばれることがあります)。民法は、遺言執行者が遺言の内容を実現するために必要な一切の行為をする権利義務を有すると定めています(1012条1項)。売る場面の流れを、条文の順に並べます。
- 遺言書の確認:自宅などで保管された自筆証書遺言は、検認を請求します。検認を経ずに遺言を執行すると、5万円以下の過料です(民法1004条・1005条)。公正証書遺言と、法務局に保管された遺言書は、検認が要りません(民法1004条2項、遺言書保管法11条)。
- 遺言執行者の就職:承諾したら直ちに任務を始め、遺言の内容を相続人に通知し、相続財産の目録を作って相続人に渡します(民法1007条・1011条)。
- 家の価値を知る:売ったときの金額は、売る前に査定で確認できます。
- 売却と精算:遺言の執行に関する費用は相続財産の負担です。ただし、これによって遺留分を減ずることはできません(民法1021条)。
- 名義の手続:相続人が遺言で不動産を取得した場合は、取得を知った日から3年以内の相続登記の申請義務があります(不動産登記法76条の2。遺贈は相続人に対する遺贈に限る)。くわしくは相続登記の義務化にあります。
遺言執行者がいる間は、相続人が相続財産を処分して遺言の執行を妨げることはできません(節5)。
できること・できないこと、相続人が止められなくなること
遺言執行者の権限と、そのとき相続人に起きることを、条文のとおりに分けます。
- 遺言執行者ができること:相続財産の管理その他、遺言の執行に必要な一切の行為です(民法1012条1項)。権限内で遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に直接その効力を生じます(民法1015条)。
- 遺言執行者の範囲:遺言が相続財産のうち特定の財産だけに関するときは、その財産だけが範囲です(民法1014条1項)。
- 遺言執行者の義務:善良な管理者の注意をもって事務を処理し(民法644条の準用)、相続人の請求があればいつでも状況を報告します(645条の準用)。受け取った金銭などは相続人に引き渡します(646条の準用)。
- 相続人ができなくなること:相続財産の処分その他、遺言の執行を妨げる行為です。違反した行為は無効ですが、善意の第三者には対抗できません。相続人の債権者(相続債権者を含む)が相続財産に権利を行使することは妨げません(民法1013条)。
遺言に書かれていない財産の分け方は、遺言の内容の実現ではないので、遺言執行者の権限に入りません。相続人で話し合って決めます。まとまらないときの手続は遺産分割がまとまらないときにあります。
報酬は誰がいくらと決めるか
遺言執行者の報酬の額は、法令に定められていません。決め方は民法1018条1項のとおりです。
- 遺言に定めがあるとき:それによります。
- 遺言に定めがないとき:家庭裁判所が、相続財産の状況その他の事情によって定めることができます。
- 費用の負担:報酬を含め、遺言の執行に関する費用は相続財産の負担です。遺留分を減ずることはできません(民法1021条)。
弁護士・司法書士・信託銀行に依頼するときの報酬の相場は、公的な資料に見つからなかったため、このページでは書きません。裁判所の案内にも、報酬の額の目安は載っていません。依頼を考えるときは、相談先から見積書をもらって確かめてください。公正証書遺言の作成費用は、公正証書遺言の費用にあります。
選任・報酬・解任・辞任の申立ての費用
遺言執行者がないとき、またはなくなったときは、利害関係人の請求によって、家庭裁判所が選任できます(民法1010条)。裁判所の案内は次のとおりです。
- 申立人:利害関係人(相続人、遺言者の債権者、遺贈を受けた者など)。
- 申立先:遺言者の最後の住所地の家庭裁判所。
- 費用:執行の対象となる遺言書1通につき収入印紙800円分と、連絡用の郵便切手です。郵便料は裁判所ごとに異なり、保管金として納付することもできます。
- 書類:申立書、遺言者の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本、遺言執行者候補者の住民票または戸籍附票、遺言書の写しまたは遺言書の検認調書謄本の写し、利害関係を証する資料(親族なら戸籍謄本など)。
家庭裁判所に申し立てる4つの手続は、いずれも家事事件手続法の別表第一に定められた事項で、申立ての手数料は同じです。
| 手続 | 内容 | 根拠・手数料 |
|---|---|---|
| 選任 | 遺言執行者がないとき、なくなったとき。利害関係人が請求する | 民法1010条、別表第一の104項。800円 |
| 報酬の付与 | 遺言に報酬の定めがないとき、家庭裁判所が相続財産の状況その他の事情によって定める | 民法1018条1項、別表第一の105項。800円 |
| 解任 | 任務を怠ったとき、その他正当な事由があるとき。利害関係人が請求する | 民法1019条1項、別表第一の106項。800円 |
| 辞任の許可 | 正当な事由があるとき、家庭裁判所の許可を得て辞する | 民法1019条2項、別表第一の107項。800円 |
800円は民事訴訟費用等に関する法律別表第一の15項(家事事件手続法別表第一の事項の審判の申立て)。選任は裁判所の案内(2026年10月3日取得)、他の3つは法令の表から読み取ったものです。郵便切手などの費用は別です。
選任の申立てを却下する審判には、利害関係人が即時抗告をできます(家事事件手続法214条3号)。抗告の手数料は申立て手数料の1.5倍で、1,200円です(民事訴訟費用等に関する法律別表第一の18項。800円の1.5倍の手計算)。
辞任と解任
- 辞任:正当な事由があるときに、家庭裁判所の許可を得て辞めます(民法1019条2項)。許可の申立てを却下する審判には、申立人が即時抗告をできます(家事事件手続法214条6号)。
- 解任:任務を怠ったときその他正当な事由があるときに、利害関係人が家庭裁判所に請求します(民法1019条1項)。家庭裁判所は、遺言執行者の陳述を聴きます。解任の審判は相続人にも告知されます(家事事件手続法210条1号・213条1号)。
- 解任の審判が出るまで:遺言の内容の実現のため必要があるときは、申立てをした人の申立てにより、審判が効力を生ずるまでの間、遺言執行者の職務の執行を停止し、職務代行者を選任できます(家事事件手続法215条)。
- 解任の審判に不服があるとき:遺言執行者は即時抗告をできます(家事事件手続法214条4号)。
- 辞任・解任で任務が終わったとき:遺言執行者であった人は、経過と結果を報告し、受け取ったものを引き渡します。急迫の事情があるときは、必要な処分をしなければなりません(民法1020条による654条・655条の準用)。
よくある質問
遺言執行者とは、何をする人ですか?
裁判所の案内では、遺言の内容を実現する者のことです。民法は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有すると定めています(民法1012条1項)。遺言執行者がいる遺贈は、その履行を遺言執行者だけが行えます(同条2項)。
遺言執行者は、必ず決めておく必要がありますか?
遺言者は、遺言で遺言執行者を指定することができるとされていて(民法1006条1項)、指定は義務ではありません。ただし、遺言による認知では遺言執行者が届け出ること(戸籍法64条)、遺言による推定相続人の廃除では遺言執行者が家庭裁判所に請求すること(民法893条)が定められています。この2つの内容を遺言に書くなら、遺言執行者が必要になります。
相続人が遺言執行者になることはできますか?
民法が遺言執行者になれないと定めているのは、未成年者と破産者です(民法1009条)。相続人であることは欠格事由に入っていません。家庭裁判所が選任するときは、遺言執行者となるべき者の意見を聴かなければなりません(家事事件手続法210条2項)。相続人が兼ねるかどうかは、遺言の内容とほかの相続人との関係で決めることになります。
遺言執行者の報酬は、いくらですか?
額は法令に定められていません。遺言に報酬が定めてあればそれによります。定めがなければ、家庭裁判所が相続財産の状況その他の事情によって定めることができます(民法1018条1項)。弁護士・司法書士・信託銀行に依頼したときの報酬の相場は、公的な資料に見つからなかったため、このページでは示しません。依頼を考えるときは、相談先の見積書で確かめてください。
報酬や遺言執行の費用は、誰が負担しますか?
遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とされています。ただし、これによって遺留分を減ずることはできません(民法1021条)。
遺言執行者ができないことはありますか?
遺言執行者の権限は、遺言の内容を実現するために必要な行為です(民法1012条1項)。遺言に書かれていない財産の分け方は、その権限に入りません。また、遺言が相続財産のうち特定の財産だけに関するときは、遺言執行者の権限もその財産だけに及びます(民法1014条1項)。
遺言執行者がいるのに、相続人が不動産を勝手に売ったらどうなりますか?
遺言執行者がいる場合、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為ができません。これに違反してした行為は無効です。ただし、事情を知らない第三者(善意の第三者)には対抗できません(民法1013条1項・2項)。
遺言執行者が決まっていないとき、どうすればよいですか?
遺言執行者がないとき、またはなくなったときは、利害関係人(相続人、遺言者の債権者、遺贈を受けた者など)の請求によって、家庭裁判所が選任することができます(民法1010条)。申立先は遺言者の最後の住所地の家庭裁判所、費用は遺言書1通につき収入印紙800円分と連絡用の郵便切手です(裁判所の案内)。
遺言執行者を引き受けた人が、何もしてくれません。どうすればよいですか?
遺言執行者がその任務を怠ったとき、その他正当な事由があるときは、利害関係人が家庭裁判所に解任を請求できます(民法1019条1項)。解任の審判の前には、家庭裁判所が遺言執行者の陳述を聴きます(家事事件手続法210条1号)。解任の申立てがあり、遺言の内容の実現のため必要があるときは、審判が効力を生ずるまでの間、職務の執行を停止したり、職務代行者を選任したりすることもできます(同法215条)。
遺言執行者を辞めたいときは、どうすればよいですか?
正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができます(民法1019条2項)。許可の申立ては、遺言執行者の辞任についての許可として、家事事件手続法の別表第一に定められています。申立ての手数料は800円です(民事訴訟費用等に関する法律別表第一の15項)。
遺言書の検認の前に、遺言を執行してもよいですか?
検認が必要な遺言書(自宅などで保管した自筆証書遺言など)では、検認を経ないで遺言を執行した人は、5万円以下の過料に処せられます(民法1005条)。公正証書遺言は検認が不要です(民法1004条2項)。法務局(遺言書保管所)に保管された遺言書も、検認は不要です(遺言書保管法11条)。
参考・出典
- 裁判所 遺言執行者の選任
- e-Gov法令検索 民法(第781条・第893条・第894条・第1004条から第1021条・第644条から第650条)
- e-Gov法令検索 戸籍法(第64条)
- e-Gov法令検索 不動産登記法(第76条の2)
- e-Gov法令検索 法務局における遺言書の保管等に関する法律(第11条)
- e-Gov法令検索 家事事件手続法(第210条・第213条から第215条・別表第一)
- e-Gov法令検索 民事訴訟費用等に関する法律(別表第一)
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の遺言の執行や報酬は、家庭裁判所、弁護士、司法書士などの専門家にご相談ください。